artscapeレビュー
田村尚子「ソローニュの森」
2013年07月15日号
会期:2013/06/06~2013/06/23
中之島デザインミュージアム de sign de>[大阪府]
フランス・ソローニュのラ・ボルド精神病院を舞台に、そこに滞在する患者やスタッフの日常を撮影した『ソローニュの森』(医学書院、2012)は、田村尚子のふわふわと宙を漂いながら被写体を包み込み、からめとっていくような眼差しのあり方が印象的な写真集だった。今回の中之島デザインミュージアム de sign de>での展示は、その写真集の収録作を中心にしたものだが、かなり雰囲気が違って見えた。
患者とスタッフが自転車でピクニックに出かける場面を撮影した「白のシリーズ」は、57・5×86センチのかなり大きなプリントに引き伸ばして展示してある。画像が白っぽく飛んだ領域が大きくなることで、彼らの存在はより寄る辺ないものになり、見る者の不安感をさらに強く喚起する。ラ・ボルドの室内や中庭などの描写も、写真集で見たときよりも「自分がそこにいる」という現実感が強まっているように感じた。それに加えて、滞在者の手記をポラロイド印画紙の膜面に直接タイピングした作品や、前作の「Voice」シリーズ(2004年に青幻舎から写真集として刊行)からの写真も展示されていて、全体として田村自身のソローニュでの体験を、その感情的な起伏をなぞるように再構築されていた。土佐堀川に面していて、水と光を贅沢に取り入れることができる会場の空間の特質を活かしたインスタレーションが、とてもうまくいっていたのではないかと思う。
ラ・ボルド精神病院での撮影は、まだ終わったわけではないようだ。展示からは、このシリーズがさらに変容・発展していく可能性も感じ取ることができた。
2013/06/23(日)(飯沢耕太郎)