artscapeレビュー
山本渉「線を引く」
2013年07月15日号
会期:2013/06/04~2013/06/16
photographers' gallery/KULA PHOTO GALLERY[東京都]
山本渉の「線を引く」も「3.11」を挟み込んで成立した写真のシリーズである。山本は2010年10月と2011年3月に、二度にわたって熊野の原生林の中に踏み込んだ。最初はひとりで「森と一つになりたい」という気持ちで撮影に臨み、「写真の中で森と共に生きていける気がして大きな満足感」を得た。二度目は震災の直後で「とても一人ではいられなかった」ので、友人とともに森に入ったという。「目に映るもの全てに震災・津波・原発のレイヤーがかかっていて私は正常な意識ではありませんでした」と率直に述懐している。
4×5インチの大判カメラを森の中に据え、山本自身が紐のような「線」を木々の間に張り巡らしていくパフォーマンスを記録していく写真のあり方は、2010年でも2011年でも変わりはない。実際にphotographers' galleryとKULA PHOTO GALLERYでの展示を見ても、どれが震災前でどれが震災後の写真かを区別するのはむずかしいだろう。それでも、山本にとっても、彼の写真を見るわれわれにとっても、「3.11」を区切りとする「線」がくっきりと浮かび上がってくるように感じる。彼自身はそれほど強く意識していたわけではないだろうが、山本のパフォーマンスは、いやおうなしに象徴的な儀式性を帯びてきているのではないだろうか。まっすぐにぴんと張られた「線」が大部分だが、特にKULA PHOTO GALLERYに展示された作品では、紐が緩んだり、曲がりくねったりしているものが目についた。山本自身の心の震えに同調しているような、そんな「線」の方にシンパシーを感じる。
なお、本展は写真研究家のダン・アビーの編集で刊行された写真集『Drawing A Line/線を引く』(MCV)の出版記念点を兼ねている。しっかりと構成・造本されたクオリティの高い写真集だ。
2013/06/11(火)(飯沢耕太郎)