artscapeレビュー

横谷宣「森話」

2013年07月15日号

会期:2013/06/05~2013/08/10

gallery bauhaus[東京都]

横谷宣がgallery bauhausで個展を開催したのは、2009年1月~2月だから、それからすでに4年以上が経っている。その間彼が何をしていたのかといえば、「印画紙を作っていた」のだという。前回の個展は口コミで評判を呼び、50点以上の作品が売れた。岡山在住の、ほとんど無名の写真家の展示としては、まったく異例のことといえる。横谷のセピア色にトーニングされたプリントは、調色、ニス塗りなどに時間がかかり、しかも水彩紙に乳剤を塗布した特殊な印画紙でしか焼けない。ところが、この印画紙が製造中止で手に入らなくなり、販売したプリントを制作するためには、自分で印画紙をつくるしかなくなってしまった。失敗を重ね、試行錯誤しているうちに4年以上の時間が過ぎてしまったというわけだ。いかにも徹底した完璧主義者の横谷らしいエピソードといえるだろう。
今回展示された「森話」のシリーズは、1点を除いてはすでに4年前にプリントが終わっていた作品だ。前回の「黙想録」は、手製のレンズを用いて、さまざまな被写体から、彼自身の「原風景」というべきイメージを抽出しようとする試みだった。それと比較すると、「森話」は1997年に3ケ月ほどの期間をかけて、東南アジアの国々で集中して撮影された写真群なので、シリーズとしてのまとまりがある。擬古典的なピクトリアリズムの再生に留まることなく、彼がその場所で感じとったリアリティを、できうるかぎり精密に定着していこうという志向は、このシリーズでも貫かれている。
ようやく印画紙製作という重荷から解放されたわけなので、横谷にはぜひ新作の発表を期待したい。一時の虚脱状態からようやく脱して、本格的に撮影にかかろうという意欲も湧いてきたようだ。次回の個展の開催時期は、少し早まるのではないだろうか。

2013/06/21(金)(飯沢耕太郎)

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