artscapeレビュー

森山大道「1965~」

2013年07月15日号

会期:2013/06/01~2013/07/20

916[東京都]

916の大きな会場に、大判プリントを中心に森山大道の100点以上の作品が並んでいた。美術館並みのスケールで、しかもかなりわがままなチョイスで展示を構成できるこの会場の特性がよく活かされた展示といえるだろう。
展示作品は1965年2月号の『現代の眼』に発表され、デビュー写真集『にっぽん劇場写真帖』(室町書房、1968)の巻末にも掲載された「胎児」のシリーズから近作まで多岐にわたる。1960年代末~70年代初頭に撮影されたカラー写真が、大小のモノクローム・プリントに挟み込まれるようにして展示されているのも面白い。会場に掲げた解説の文章(飯沢耕太郎「森山大道──ラビリンスの旅人」)でも指摘したのだが、「湿り気」「浮遊感」「部分/断片化」という特質を備えた森山の作品世界を彷徨い歩く愉しみを、たっぷりと味わい尽くすことができた。
おそらく916を主宰する写真家・上田義彦の好みが、作品のセレクションに強く働いているのではないだろうか。目につくのは、女性を被写体にした、ポートレート、ヌード、スナップショットが、かなり多く選ばれていることだ。ハイヒール、網タイツ、花などを含め、森山が独特の「部分/断片化」の眼差しで切り出してきた「女性」のイメージは、エロティックな連想に見る者を誘い込む。視覚と触覚と嗅覚とが見極めがたく絡み合ったエロスの力を、上田のセレクションがとてもうまく引き出していると思う。
さらにいえば、その匂い立つようなエロティシズムは、上田の写真にはどちらかといえば欠けているところでもある。そのあたりの微妙な綾が、写真展の成立にかかわっていそうな気もする。

2013/06/01(土)(飯沢耕太郎)

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