artscapeレビュー

坂本政十賜「東北」

2013年07月15日号

会期:2013/06/10~2013/06/23

ギャラリー蒼穹舎[東京都]

坂本政十賜の「東北」展のDMが送られてきたとき、直感的に「震災絡み」の展示ではないかと思った。DMに使われている写真に、直接的に震災の傷跡が写っていたわけではない。だが、「東北」というタイトルも相まって、そのトタン屋根、モルタル、ブロック塀などがモザイク状に組み合わされた建物と駐車場の写真もまた、震災の見えない影に覆い尽くされているように見えてしまったのだ。
実際にギャラリー蒼穹舎での展示を見て、その予想が半ば当たり、半ば外れていたことを知った。坂本がこのシリーズを撮影し始めたのは、2009年で、11年には『アサヒカメラ』で最初の発表をしている。その1カ月後に震災が起きる。いうまでもなくそのことによって、彼が撮影していた青森県、岩手県、秋田県の内陸部の家々を見る視点も変わったのではないだろうか。「東北の家の造形美は、そこに生きる人々の感性から生まれ、豊でかつ厳しい風土がディテールに宿る」ことで成立してくることが、はっきりと見えてきたのだ。
坂本の撮影の姿勢は、震災前も後もほとんど変わってはいないはずだ。6×7判のマミヤ7 IIの80ミリレンズで、東北の家々が環境のなかでどのように在るのかを、丁寧に押さえていこうとするアプローチは一貫している。それでも、その一見素っ気ない写真群には、「土地に生きる人々の魂、そして土地の霊」に肉薄していこうとする、彼の心の昂りがみなぎっているようにも感じる。熱っぽさと冷静さとが同居する、ぴんと張りつめた、いいシリーズに育ちつつあると思う。

2013/06/11(火)(飯沢耕太郎)

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