artscapeレビュー
浜田浄 個展 1982~1985の─鉛筆による大作「DRAWING」─
2014年10月01日号
会期:2014/09/01~2014/09/13
ギャラリー川船[東京都]
浜田浄(1937-)が80年代に精力的に取り組んでいた鉛筆画を見せる個展。鉛筆の黒鉛を和紙の上に塗り込めた平面作品が20点弱、展示された。
それらはいずれも無機的で、何かの形象が描写されているわけでもなく、筆跡もまったく認めることができない。ただただ、黒い均質な画面が立ち現われているのだ。その黒い平面に、まず圧倒される。
とはいえ、その黒さは、漆の黒でもなく、墨の黒でもない、やはり鉛筆の黒なのだ。光をわずかに反射しているので硬質的に見えなくもないが、その反面、柔らかな温もりすら感じられることもある複雑な質感がおもしろい。とりわけ床置きにされた作品は、長大な2枚の和紙の両面を鉛筆で塗りつぶしたうえで、1枚の一端を丸めて重ねているため、その硬質と軟質の両極を同時に味わうことができる。
描くのではなく塗る、いや塗り込める。事実、この作品における浜田の手わざは、4Bの鉛筆で短いストロークを無限に反復させる作業をひたすら繰り返すものだった。シンプルではあるが強い身体性を伴う運動から生まれたからこそ、これほどまでに私たちの眼を奪うのだろう。絵画は、やはり身体運動の賜物なのだ。
展示のキャプションをよく見ると、近年の作品も含まれていることがわかる。つまり、浜田は70歳を超えた現在もなお、この過酷な身体運動を要求する作品に挑んでいるのだ。生きることと直結した絵画とは、まさにこのような作品を言うのではないか。
2014/09/01(月)(福住廉)