2021年04月15日号
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artscapeレビュー

NIPPONパノラマ大紀行~吉田初三郎のえがいた大正・昭和~

2014年10月01日号

会期:2014/07/26~2014/09/15

名古屋市博物館[愛知県]

吉田初三郎は鳥瞰図の絵師。大正から昭和にかけて全国の都市や景勝地の鳥瞰図を、およそ3,000点以上描き残した。本展は、初三郎についての研究者である小川文太郎のコレクションのなかから200点以上を厳選して展示したもの。会場には鳥瞰図のほか、観光旅行のポスターや時刻表、絵葉書など、関連する資料もあわせて発表された。鳥瞰図の鮮やかな色合いがじつに美しい。
初三郎の鳥瞰図は日本の近代化と併走していた。全国各地に鉄道が敷設され、鉄道による観光旅行が普及すると、各地で路線図と景勝地をあわせて描写した案内図の需要が高まった。初三郎の観光鳥瞰図を見ると、その対象が北は北海道から南は九州まで、文字どおり全国津々浦々に広がっていたことがわかる。初三郎の眼は、はるか上空から近代化していく日本列島を見下ろしていたのだ。
ただ、初三郎の鳥瞰図は近代絵画からは除外されてしまった。「絵画」ではなく「地図」として制度的に振り分けられたのだ。だが、よく見ると初三郎の鳥瞰図は必ずしも科学的な真正性によって描かれているわけではないことに気づく。景勝地の滝を極端に大きくデフォルメしたり、鉄道の路線をあえて一直線に単純化したり、初三郎はつねに彼の創意を工夫しながら絵に導入していたのだ。そもそも鳥瞰図という表現形式のなかにすら、必ずしも鳥の眼で見た光景を正しく反映しているわけではないという点で、想像的な次元が含まれていると言わねばなるまい。
吉田初三郎による観光鳥瞰図は単なる「地図」ではない。それらは、初三郎という類まれな絵師による、確かな表現なのだ。近代絵画が見失った、ありえたかもしれない、もうひとつの「絵画」が潜在しているのである。

2014/08/30(土)(福住廉)

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