artscapeレビュー

大橋可也&ダンサーズ『クラウデッド』『ヘヴィメタル』

2015年04月01日号

会期:2015/03/20~2015/03/26

清澄白河周辺、江東区文化センター[東京都]

「土地の記憶を吸う吸血鬼」をテーマに、大橋可也&ダンサーズは、2013年から江東区のリサーチを続けている。そのプロジェクト「ザ・ワールド」のシーズン2として上演されたのがこの二作。『クラウデッド』は、SNACを出発点に、2~4時間かけて江東区の点在するエリアを周遊しながら鑑賞する「散歩型」の公演。こうしたスタイルは、演劇の分野ではおなじみになっていて、ぼくならば2010年の飴屋法水の『わたしのすがた』やPort B『完全避難マニュアル 東京版』などを思い出す★1。あるいは、越後妻有や瀬戸内などの地域型国際トリエンナーレも「散歩型」の鑑賞スタイルの代表例だろう。ダンス分野では、かつて「横浜ダンス界隈」という企画もあった。今作に限らず、こうした鑑賞の面白いところは、点在する鑑賞エリアに導かれて進むうちに(渡されたマップには「舞踏譜」の文字が。移動経路も振り付けの一部ということか)、作品鑑賞よりも町並みに目を奪われ、思わぬ発見や、予期せぬ出来事に遭遇するという点にある。今回であれば、コーヒーショップのサードウェーブが江東区でこんなにも華々しい展開になっているのかと驚かされたり、昔ながらのスナックでのパフォーマンスでは、はじめて入る空間に新鮮な気持ちになったりした。よそ見の効用というか、芸術云々より、街(あるいは自然)の持つ力を発見するところに魅力がある、しかし、そのぶん、よっぽどのことをしないと芸術は街や自然に敗北してしまう。町に住む吸血鬼=ダンサーという設定は、舞踏にひとつのルーツをもつ大橋のダンス性とマッチしていて、喫茶店やスナックなどでのダンサーの振る舞いは、街が宿す不可視の部分を一瞬感じさせてくれる。けれども、今作の特徴だと思われる、親愛の情を湛えた男女の関係性は、呈示されると事柄がわかりやすくなるぶん、めくれた不可視の部分への驚きを薄くしてしまう。吸血鬼というフィクションと江東区という土地を結びつける仕掛けが見えにくかったのだ。「劇場型」の上演『ヘヴィメタル』は、その傾向がより一層濃厚で、舞台上のダンサーたちはどこかに迷い込み、生息しているのかもしれないが、そこがどこだか判然とせず、観客は置いてけぼりをくってしまう。音響に圧倒され、映像にも引きつけられる要素があった一方で、ダンスには総花的な印象をもってしまった。大橋は「ザ・ワールド」を継続させるという。とくにダンス分野による「散歩型」の上演には、期待も高まるに違いない。だからこそ、欲が出るのだが、大橋にはダンスでしかできない「散歩型」の上演とはどんなのか、ぜひ考えてみてもらいたい。それはおそらく、肉体と土地との驚くべき具体的な接点を探すことだろうし、思案すべきはその接点にひと匙のファンタジーを用意することだろう。

★1──飴屋法水『わたしのすがた』(artscapeレビュー、2010年12月01日号)
URL=http://artscape.jp/report/review/1225400_1735.html


「ザ・ワールド シーズン2」トレーラー

2015/03/21(土)、2015/03/26(木)(木村覚)

2015年04月01日号の
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