artscapeレビュー
みんなにうれしいカタチ展──日本発ユニバーサルデザイン2015
2015年04月01日号
会期:2015/03/03~2015/05/24
印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]
日本におけるユニバーサルデザインへの取り組みと、これからのデザインの課題を考える企画。ユニバーサルデザインとは、できるだけ多くの人々が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること。1980年代にロナルド・メイスが提唱した概念で、いわゆるバリアフリーとの違いは、身体に障害を持つ者に留まらずあらゆる人がその対象となることにある。私たちは誰もが障害者になる可能性がある。歳をとれば筋力が衰える。少子化の時代を迎えて、子どもの安全にはより大きな配慮が求められている。文字が読めなくても、十分な知識がなくても安全に使える道具、装置へのニーズは高い。現時点で障害がなくても、ケガをして一時的に生活が不自由になったり、子どもが生まれたり自分が歳を取って生活スタイルに変化が生じても、あらかじめデザインが配慮されていれば、いざというときに困ることが少なくなるはずだ。ユニバーサルデザインが日本に本格的に紹介されてから約15年。これまでにさまざまな商品の開発にこの概念が取り入れられてきた。
展示の導入部は、ユニバーサルデザインに配慮したデザインとそうでないデザインとの比較によってデザインの課題を考えるコーナー。おそらく一番わかりやすい例はトランプだろうか。通常のトランプは左上と右下に数字が配置されている。しかし左利きの人がこのトランプを扇状に開くと数字が上のカードに隠れて見えなくなってしまうのだ。数字の配置を逆にした左利き用のトランプもあるが、それは逆に右利きの人には使えない。しかしカードの両側に数字を配すれば右利きの人にも左利きの人にも使えるようになる。重要なのはそのデザインが多数派である右利きの人にとって不利益をもたらさない点、特別なコストを必要としない点である。
展示の中心は、これまでに開発されてきたユニバーサルデザイン商品の紹介。開封しやすいパッケージ、直感的に操作できてボタンのサイズが大きめにつくられているエアコンのリモコンなどは、ユニバーサルデザインの思想が生かされたわかりやすい例。これもユニバーサルデザインの範疇に入るのかと思ったプロダクトはICカード乗車券。なるほど、手が不自由であっても小銭の出し入れなど細かな作業が不要になる。もちろんICカードで恩恵を受ける大多数は一般の人々だ。もうひとつは、充電式掃除機。ハイブリッド式で電源のない場所でも使えるこの掃除機の充電池にはUSBポートが付いていて、非常時には電源としても使えるという。ユニバーサルなデザインは、身体の問題だけではなく日常と非日常の間にも成立するのだ。言語によるバリアもまたデザインにとって重要な課題である。会場にはセブン銀行の多言語対応ATMの実機が置かれており、操作を体験できる。2020年に東京オリンピック、パラリンピックを控えて、これから海外から多くの人が訪れることを考えれば、ユニバーサルデザインの普及は私たちの生活を便利にするばかりではなく、日本を訪れる人々への「もてなし」にもなり、そしてなによりも大きなビジネスとなりうる可能性を秘めている。[新川徳彦]
2015/03/03(火)(SYNK)