artscapeレビュー
大西康明「空間の縁」
2017年03月15日号
会期:2017/01/14~2017/02/28
ARTCOURT Gallery[大阪府]
天井から垂れた黒い接着剤の無数の糸に支えられ、薄く半透明のポリエチレンシートが、山の稜線のような起伏を帯びて宙に浮かんでいる。「山」の体積が反転してぽっかりと空白になった空間を、観客は内側と裏側から体験する。大西康明はこれまで、ポリエチレンシートと垂れた接着剤の糸という軽やかで繊細な素材を用いて、近代彫刻が硬い外皮とボリュームの内部に隠蔽してきた「充満した空虚」を可視化し、重力や粘性といった物理法則に従うマテリアルの可塑性によってそのマッチョさの脱臼をはかってきた。
本展で発表された《空間の縁》は、柱状のバルーンに少しずつ空気が送り込まれて膨らみ、体積を獲得したのち、再び空気を抜かれてしぼんでいく作品。膨張と収縮を繰り返す、薄い被膜でできた存在は、ゆっくりと呼吸する生き物のようだ。また、《体積の内側》は、アクリルボックスの天辺から、接着剤を垂らした糸でできた鍾乳洞か氷柱のような形状がいくつも垂れ下がる作品。ボックスの中をのぞき込むと、底は鏡面になっており、虚像の世界の「山脈」がこちらへ向かって突き出してくるような錯覚を味わう。内部ががらんどうの空虚が虚像の世界に映り込むとき、虚×虚が実在感へと転じる。その鮮やかな反転が今後の新たな展開を感じさせた。
2017/02/15(水)(高嶋慈)