artscapeレビュー
第20回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展
2017年03月15日号
会期:2017/02/03~2017/04/09
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
今年20回を迎えたTARO賞展、今回の応募総数は499点という。昨年より微増だが、それ以前の10年ほどは600-800点だったから間違いなく減っている。それでも幸いなことに質は落ちていないようだ。今年のTARO賞は、展示室中央のガラス部屋にインスタレーションした山本直樹の《Miss Ileのみた風景》。内部に角砂糖を積み上げて都市風景をつくり、ガラス面におそらく砂糖で「保育園落ちた日本死ね!!!」とか「弱者排斥」「盛り土」といった挑発的な言葉や人物の顔を描き、観客が近づくとセンサーで閃光が走り爆音が響くという仕掛け。タイトルの「ミス・イル」という朝鮮半島の人名を連想させる言葉は、もちろん「ミサイル」のもじりで、砂糖の甘さと現実の危機をストレートすぎるほど対比的に表わしている。岡本敏子賞の井原宏蕗の《cycling》は、ヒツジ、ブタ、シカなどの動物の糞を漆でコーティングした黒い小さな固まりをつなげて、その動物の姿を再現するという作品。見た目はパッとしないが、排泄物からその生き物を再生させ、糞を漆で工芸化させる逆転の発想が鮮やかだ。
この井原作品に見られるように、今回は多数の要素を集積させてつくった作品、および技巧を凝らした工芸的な作品が多かったように思う。例えば、F1マシンとオオサンショウウオを合体させた井上裕起の《salamander[F1]》(特別賞)は、手業とは思えない見事な仕上げになってるし、同じく特別賞の黒木重雄の《One Day》は、海岸に打ち上げられた無数の瓦礫に群がる無数のカラスを描いた絵画だ。ほかに、多数の絵画でひとつの作品を形成した後藤拓朗とユアサエボシにも注目したい。後藤の《先端絵画掲示板》は、材木を組んだ掲示板に写実的な風景画を中心に20点ほど展示したもの。この巨大な掲示板が全体の支持体となり、また額縁の役割も果たしている。そして、今回もっとも感銘を受けたユアサの《GHQ PORTLAITS》。角が欠けた瓦にアメリカ兵の肖像を描いた作品で、なんと150枚ある。これは敗戦後、日銭を稼ぐためそこらに落ちてる瓦に描いて売った進駐軍の似顔絵が、70年ぶりにアメリカで発見されたというストーリーにもとづく。いわゆる戦争記録画(153点)も意識したはず。汚れた瓦という素材選びといい、的確な描写力といい、架空のストーリーといい申し分ない。勝手に村田真賞だ!
2017/02/05(日)(村田真)