artscapeレビュー
伊藤義彦「箱のなか」
2017年03月15日号
会期:2017/01/13~2017/03/04
PGI[東京都]
伊藤義彦は1980年代から、あらかじめ図柄を決めてフィルム一本分を撮影し、そのコンタクトプリント(密着焼き)を作品として提示するシリーズを発表してきた。その後、2000年代になると、画像をプリントした印画紙を引きちぎり、その繋ぎ目を斜めに削ぎ落として横長に貼り付けていく「写真絵巻(psychography)」のシリーズを制作するようになる。今回PGIで展示された「箱のなか」もその延長上にある作品で、《雨垂れ》(2007)、《亀と蛙》(2009)、《人形》(2009)など19点が並んでいた。
伊藤の仕事は、一貫して写真というメディアを通じて現実世界をどのように把握し、定着するかを問い直すコンセプチュアルな営みである。だが、方法論のみが先行する堅苦しさはまったく感じられない。むしろ、彼の柔らかな感受性や好奇心がいきいきと発揮されていて、見ていると気持ちがほぐれていく。近作では、それにやや奇妙なユーモアも加わってきた。残念なことに、「写真絵巻」の制作に必要な薄手の印画紙が手に入らなくなったために、違う手法を模索しなければならなくなったという。それでも、彼のことだから、新たなテクニックを編み出して、さらなる視覚世界の探求を続けていくのではないだろうか。
ところで、会場には、伊藤と彼の仲間たちが、1979~81年にかけて南青山で運営していた写真ギャラリーOWLのリーフレットも置いてあった。OWLでは、伊藤だけでなく、田口芳正、矢野彰人、島尾伸三、長船恒利らが、クオリティの高い作品を発表していた。本レビューでも何度か書いているが、この時期の日本の「コンセプチュアル・フォト」について、そろそろ本格的な調査・研究を進めていくべきだと思う。
2017/02/15(水)(飯沢耕太郎)