artscapeレビュー

増田貴大『NOZOMI』

2017年03月15日号

発行:赤々舎

発行日:2017年1月20日

専門学校ビジュアルアーツグループが主催するビジュアルアーツフォトアワードの第14回受賞作品集である。ページを開いた読者は、最初はやや戸惑うのではないだろうか。路上や建物の中など、さまざまな状況にいる人たちが写り込んでいる。仕事をしている人、散歩をしている人、遊んでいる人、所在なげに佇む人、自転車を押して歩くカップルもいれば、墓地でお葬式の最中らしい人たちもいる。じつはこれらのスナップ写真はすべて、山陽新幹線の「のぞみ」の車中から、カメラを振りながらシャッターを切る「流し撮り」の手法で撮影されたものなのだ。
作者の増田貴大は、仕事の関係で一日2往復6時間、新大阪─広島間を「のぞみ」で移動していたのだという。このシリーズは、そのあいだに撮影した膨大な写真群からセレクトされた。写真を見ていると、偶然に垣間見られた光景にもかかわらず、そこに現代日本の「いま」がありありと写り込んでいることに驚かされる。一見平和な眺めなのだが、孤独や不安がじわじわと滲み出てくるようなものもある。写真が、社会の無意識をあぶり出す機能を備えたメディアであることを、あらためて思い起こさせる作品といえる。従来のドキュメンタリー写真の発想と手法とを更新する「ニュー・ドキュメンタリー」の誕生といえるのではないだろうか。
ところで、2003年にスタートしたビジュアルアーツ・フォトアワードは、今回の第14回で終了することになった。木村伊兵衛写真賞を受賞とした下薗詠子、日本写真協会賞新人賞を受賞した石塚元太良と小栗昌子、キヤノン新世紀グランプリ受賞の赤鹿麻耶、伊奈信男賞を受賞した藤岡亜弥など、いい写真家を輩出してきただけに、ここで終わるのはとても残念だ。

2017/02/20(月)(飯沢耕太郎)

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