artscapeレビュー
萩原朔美作品展 第一部 100年間の定点観測─朔太郎、朔美写真展
2017年03月15日号
会期:2017/02/06~2017/02/17
萩原朔美は以前から定点観測写真という手法にこだわり続けてきた。今回の展示もその流れに沿うものだが、より興味深い内容になっていた。
彼の祖父にあたる詩人の萩原朔太郎は、大正から昭和初期にかけて、ステレオカメラによる撮影に熱中していたことがある。萩原は、残されたそれらのネガをプリントしてその撮影場所を特定し、「100年間」という時を隔てた定点観測を試みた。今回撮影したのは、前橋公園など群馬県内、大森駅前、丸の内、ニコライ堂など東京各地、大阪・八尾の萩原本家などである。むろん、風景は大きく変わっているのだが、朔太郎が撮影した時期の面影がかすかに残っている場所もあり、その共通性を探り当てていくのがなかなか楽しい。萩原自身も、写真撮影を通じてのタイムスリップを堪能していたのではないだろうか。
風景の中にも、同じように人物を配置するなどの工夫をしているのだが、前橋市内の太田写真館(撮影・太田清吉)で撮影された「萩原朔太郎と妹ユキ」(1914)の定点観測の試みでは、それがより徹底されている。2012年に「朔太郎の孫萩原朔美と妹ユキの孫三浦柳」の写真が、同じ太田写真館で、「太田清吉の孫太田紘一氏」の手で撮影されたのだ。同じようにギターを抱えたポーズで、似たような服装、髪型で撮影された肖像写真である。さらに2016年には「朔太郎の曾孫萩原友と妹ユキの曾孫三浦ももこ」の写真が、「太田清吉の曾孫太田奈々絵氏」によって撮影されている。時空を超えて、一枚の肖像写真が再演され続けていくというこの試みは、じつに味わい深い。いつまでできるかはわからないが、次世代でもぜひ続けていってほしいものだ。
なお、同会場では本展の続編として、2月20日~3月4日に「第二部 日付を編んだ本」展が開催された。「レシートや予約表やはがきなど、日付の入ったものを製本した作品」の展示である。こちらにも、彼の場所と日付への執着ぶりがよくあらわれていた。
2017/02/09(木)(飯沢耕太郎)