artscapeレビュー

とりのゆめ / bird’s eye

2017年03月15日号

会期:2017/02/18~2017/03/05

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

「地域アート」と、資料のリサーチに基づく「アーカイヴァル・アート」、隆盛する両者を批評的に検証する好企画。会場の神戸アートビレッジセンターが位置する「新開地」という土地をめぐり、架空の神話の提示とそれを裏付ける各種資料の「捏造」の中に、実際の地形の考察や史実を織り交ぜ、虚実入り乱れる「ミュージアム」を擬態した空間をつくり上げた。出品作家は、解体された建築の廃材をウクレレ化する作品で知られる伊達伸明と、建築家の木村慎弥。また、木村が参加する建築リサーチ組織RAD - Research for Architectural Domainを立ち上げた建築家・リサーチャーの榊原充大がリサーチ&ドキュメンテーション担当として参加している。
本展は、「新開地」という土地の誕生を物語る架空の「神話」をベースに、絵本風のストーリーが展開される順路と、戦前の尋常小学校(風)の教科書のテクストに沿って展開する順路の2つに分岐し、最後のオチで両者が再び合流する、という空間構成も工夫が凝らされている。対象年齢(?)によって微妙に異なる語り口や解釈も、物語の受容の多面性を示す。神話のあらすじは、「カチン石」という石を山に運ぶ命を天の神から受けた「カブーク」という巨鳥が、山の神と海の神の争いを引き起こし、陸地はめちゃめちゃに荒らされるが、流された土砂の堆積が形づくった三角形の土地を「bird’s eye=俯瞰」で見ると、青い海=青空を背景にそびえる山の形になり、その天辺に置かれた「カチン石」が5つに砕けて「シンカイチ」になった、というものだ。この、地域に伝わる「神話」を裏付ける資料として、古文書、絵図、土偶といった物体の展示に加えて、「地域各所で信仰される巨石」の記録写真やレプリカ、「巨鳥の足跡が見つかった」と報じる新聞記事、教科書、年表など、真実性を保証する制度化されたフォーマットが総動員されて「偽造」されている。一方で、神戸の水害についての年表や新聞記事の複写パネルも配置され、単なる制度批判に堕すことなく、フィクションを経由して多発する水害の歴史や地形の特徴についても学べるようになっている。また、落語のオチのようなラストは、視点の転換による再発見や、物事の多面的な見方についても示唆的だ。
こうした「偽の資料のアーカイヴ」という手法は、例えば、「架空の画家が描いた絵画の展覧会」というフォーマットを採るイリヤ・カバコフの作品や、レバノン内戦に関するドキュメントを偽造したアトラス・グループの作品を想起させる。本展もまた、歴史そのもののフィクショナルな性格や、「アーカイヴァル・アート」が依拠する資料の真正さ、それを保証する制度への疑義を呈し、危ういもののうえに成立していることをメタな視点で問い直しつつ、想像力でもってどう地域へ還元できるか?という問いに応えていた。

2017/02/25(土)(高嶋慈)

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