artscapeレビュー
畑智章「THE NIGHT IS STILL YOUNG」
2010年11月15日号
会期:2010/10/01~2010/10/30
AKAAKA[東京都]
日本のドラァグクイーン・シーンがスタートしたのは1980年代後半だから、既に20年以上の歴史を持つ。シモーヌ深雪ら先覚者たちが育てあげていった、異装と派手なメーキャップのクイーンたちの活動は、その時代の先端的なファッションやアートと共鳴しながら、独特の形で定着していった。ただ当初の衝撃は、現在ではむしろ商品化、大衆化によってやや薄められているようにも見えなくはない。
ロサンゼルスとシンガポールを拠点として活動する畑智章は、2000年代はじめに関西を中心としてドラァグクイーンの状況に深くかかわり、多くの写真を撮影した。それらをまとめたのが、今回のAKAAKAでの個展「THE NIGHT IS STILL YOUNG」と赤々舎刊行の同名の写真集である。クラブなどを撮影した写真を目にする機会は多いが、大部分は情緒過多か、その場の雰囲気に流されてしまったものばかりだ。それに対して畑のこのシリーズは、きっちりと被写体に正対し、しっかりと みとるように撮影している。ドキュメントの範疇に入る仕事ではあるが、ここにいる者たちの存在の輝きをちゃんと伝えなければならないという思いが、彼の写真に心地よいテンションの高さをもたらしているのだろう。
「欺瞞に満ちた社会に対して全く別の『欺瞞で』それを無効化し、笑い飛ばし、陳腐な歌をリップシンクしながら、日々自分たちに押し付けられる『何か』に対して抵抗し、それを破壊していく──そうやって新しい世界を自らのものにする──そういうきっかけになって欲しいと思います」。これは畑がAKAAKAのホームページに寄せた、「今回の本を見た若い世代の子達」へのメッセージである。まったく同感。次の「新しい世界」を見出していくためには、忘れ去られ、消えていってはならないものがあるということだ。
2010/10/01(金)(飯沢耕太郎)