artscapeレビュー
宮本隆司「1975-2010 Film & Digital」
2010年11月15日号
会期:2010/09/10~2010/10/09
TARO NASU[東京都]
映像作品と写真による、宮本隆司にしてはかなり珍しい展示である。作品は4点で、「The Crossing 1975」は、ニューヨークのブロードウェイの交差点を、360度回転しながら16ミリフィルムで撮影するというシリーズ。マンハッタン島のすべての交差点を撮影するつもりだったが、32分回したところで「挫折」したという。「New York 1975」は、やはり同じ時期に「人々に声をかけ人間を撮る」ことをめざしてシャッターを切ったスナップショット。ストロボの光に浮かび上がる被写体と、彼らに正面から向き合う宮本の間の緊張感がひしひしと伝わってくる。
「さかさま うらがえし 2009」はヴェネチアの広場で撮影された「上下左右逆、さかさま、うらがえし」の映像を、モニターで見せる作品。2004年に世田谷美術館で展示した同名の作品の続編にあたる。「木を見て森を見ず 2010」は新作で、風にゆらぐ樹木の群れが画面全体に映し出される縦長のモニターが並んでいる。揺らぎが少しずつ伝播していくさまが、あたかもひとつの生きものを見ているようで、その不思議な動きにじっと見入ってしまう。
こうして、ごく初期から新作まで宮本の作品を眺めていると、彼がある視覚の枠組みをしっかりと定めることで、そのなかにヴァリエーションを呼び込んでいくタイプのつくり手であることがはっきりわかる。それは映像作品でも写真でも変わりなく、「世界はこのように見えてくるのではないか」という予測のもとに視覚の装置を組み上げ、結果的にはその予測からはみ出してくるものへと自らを開いていく姿勢は、見事に一貫しているのではないだろうか。ただ1975年の、いかにも窮屈で肩肘を張った実験作(それはそれで初々しくていいのだが)と比較すると、近作では柔らかく融通無碍な雰囲気が強まっている。宮本の表現者としての成熟ということだろう。
2010/10/07(木)(飯沢耕太郎)