artscapeレビュー
暗殺の森
2011年02月01日号
会期:2010/12/25~2011/01/07
シアター・イメージフォーラム[東京都]
同じ「森」でも、こうもちがうものか。ドミニク・サンダとステファニ・サンドレッリがまるでタイプのちがう女性を見事に演じて見せた『暗殺の森』は、直子と緑を似たような女性として映してしまった『ノルウェイの森』とじつに対照的だ。双方にいい顔をする卑屈で孤独な男をあいだに挟んでいる設定は同じだが、ちがっているのはおそらく女性の描き方だけではない。それは、世界への向き合い方だ。あちらが世界が多様であることの厳しさから逃避する無垢な美しさを描いたとすれば、こちらはその厳しさを正面から受け止める残酷な美しさを描いた。きらびやかな舞踏会での文字どおり心躍る熱気と、静かな森のなかで殺される冷たい恐怖。ベルナルド・ベルトルッチが描き出したのは、罪の意識に苛まれながらも、打算を働かせ、快楽を追究し、やがて孤独に打ちひしがれる人間のありようだった。「森」とは、それらが剥き出しのまま露にされる舞台であり、いま私たちが眼にしている芸術にもっとも欠落しているのは、この「森」なのだ。
2011/01/02(日)(福住廉)