artscapeレビュー

植田正治 写真展 写真とボク

2011年02月01日号

会期:2010/12/18~2011/01/23

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

福沢一郎にとっての満州は、植田正治にとっての鳥取砂丘だった。地平線と白い砂丘、太陽の強い光などで構成される植田の写真にはシュルレアリスムの匂いが強く立ち込めているが、シュルレアリストの多くが画面のなかに架空の世界を描くほかなかったのに対し、その舞台を鳥取砂丘という現実的な土地の上につくり上げることができたという点が、植田の強みだ。家族や地元住民、都市から呼び寄せたモデルなどを砂丘の上に配置した写真は、奥行き感より平面性が優先され、そのうえ強い陰影と、何より画面を左右に貫く地平線のラインが、現実世界でありながら非現実的に見える両義性を巧みに強調している。植田の写真を見ていると、福沢一郎から引かれたシュルレアリスムの系譜が、北脇昇の《クォ・ヴァディス》や諸星大二郎の『遠い国から』など、美術や写真、マンガなど、じつに多様なジャンルに引き継がれているのが、よくわかる。

2011/01/20(木)(福住廉)

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