artscapeレビュー

福沢一郎 絵画研究所展

2011年02月01日号

会期:2010/11/20~2011/01/10

板橋区立美術館[東京都]

日本にシュルレアリスムを導入した画家として知られている福沢一郎が主宰していた絵画研究所の実態を明らかにした企画展。《牛》をはじめとした福沢の絵画はもちろん、研究生として通っていた山下菊二や杉全直、高山良策などの作品もあわせて展示された。福沢のシュルレアリスムを見ていて気づかされるのは、その着想の起源としての満州の存在だ。どこまでも広がる荒涼とした光景には、たしかに無意識の深遠さが託されているのかもしれないが、その無意識は中国東北部という現実的な国土のかたちをとおして現われていたのではないか。地政学的にも政治経済的にも、かつて満州には狭い島国とは比べものにならないほどの可能性が宿っていると信じられていた。少なくとも日本のシュルレアリスムにとって、満州が果たした役割はかなりの程度大きいといえるように思う。作家の内発性や無意識などをより深く掘り下げるには、表現の起源としての満州という問題を考える必要があるのではないか。そして、福沢のみならず、たとえば五代目古今亭志ん生や赤塚不二夫、加藤登紀子など満州からの引揚者たちの創作活動を比較検討することができれば、現行の美術史をより幅広く、厚みのある表現史として書き換えることができるだろう。

2011/01/08(土)(福住廉)

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