artscapeレビュー
『トロン:レガシー(TRON LEGACY)』
2011年02月01日号
会期:2010/12/17
全国TOHOシネマズほか
『トロン:レガシー』。1982年に公開された、世界初のフルCG映画『トロン』の続編が遂にそのヴェールを脱いだ。2010年が『アバター』の年だったとしたら、2011年は『トロン:レガシー』の年になれるだろうか。
20年前、エンコム社の設立者、ケヴィン・フリンが謎の失踪を遂げる。成長したケヴィンの息子サムがエンコム社の大株主になるが、彼の日課は利潤を追うばかりの経営者たちを困らせること。ある日、サムに謎のメッセージが届く。謎を解く手がかりを求めて、父の経営していたゲームセンターを訪れたサムは、そこでサイバースペースにのみ込まれてしまう。サムが行き着いたのは、父ケヴィンがつくり出した理想の世界。未知の敵と激戦を繰り広げながら、父と再会し、反乱を起こしたクルー(ケヴィンがつくったプログラム)から人類を救うというのが、この映画の大まかなストーリーだ。
あまりにも典型的なストーリーだ。生き別れた親を探し、暴君を追い出し、群れを救う。『ライオンキング』のサイバースペース版にすぎない。オビ=ワン・ケノービを連想させるケヴィンのファッションから光線剣、「父親ではない」という台詞に至るまで、『スター・ウォーズ』へのオマージュも満載すぎて、新鮮さがない。デジタル俳優の表現力からみても既存の映画を超えていない。『トロン』前編が公開された1982年には、『E.T.』、『ブレードランナー』といったSFの名作が次々と公開され、『トロン』は注目されることもなく、もちろん興行成績もそれほど芳しくなかった。28年ぶりに呪われた名作を蘇らせたディズニーの夢は、今回も悪夢に終わってしまうのか。またこの映画に見どころはあるのか。それは「デザイン」だ。空間デザインとサウンドスケープ(音が描く風景)によってうみ出された新世界こそが、ディズニーが夢見た世界であり、この映画の見どころである。既存の3D映画、たとえば『アバター』が奥行きをつくり出すことで立体感を強調しているのに対し、この映画は平面をつくり出すことで、ストーリー展開上必要なサイバースペースと機械美、そして3Dという三つの要素を余すところなく実現させている。音の生み出す空気の密度もまた、観客をサイバースペースの真中に誘う。建築学を学んだ、監督のジョセフ・コジンスキーは「制作にあたって、まず映画制作の経験がない自動車デザインや建築分野の人たちに声をかけた」という。ストーリー不在という空白を、映像(デザイン)が見事に埋めている、別の意味で見ごたえのある作品だ。[金相美]
図版クレジット=(C)DisneyEnterprises, Inc.AllRightsReserved.
2010/12/21(火)(SYNK)