2021年12月01日号
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artscapeレビュー

大正イマジュリィの世界──デザインとイラストレーションのモダーンズ

2011年02月01日号

会期:2010/11/30~2011/01/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

「イマジュリィ」とは、フランス語で図像、画像のこと。大正期、印刷技術の進歩と普及によって、書籍や雑誌、広告などの複製メディアを舞台に多様な視覚イメージが社会に溢れ出る。アール・ヌーボーやアール・デコといった海外からの様式を取り入れつつ、同時代の文学、文化、社会運動などを反映し、それらがまたこの時代特有の表現の多様性へと結びつく。新しいメディアで活躍したのは、当初日本画や洋画の画家たちであったが、やがてそのような場を専門とする画家、挿画家が現われてくる。この時代の文化は「大正ロマン」「大正モダン」とも呼ばれるが、「大正イマジュリィ」はそのなかでも特に複製技術を前提とした視覚表現を括る概念のようだ。2004年に大正イマジュリィ学会が設立されており、本展は学会の研究活動の一環と位置づけてよいのだろう。図録に収録されている対談に依れば、イマジュリィという言葉は島本浣氏(京都精華大学教授・大正イマジュリィ学会会長)の発案によるものだそうだ。
「大正イマジュリィ」は、基本的には時代区分と発表の場=複製メディアによって規定される。それゆえ、包摂される画家も作品の様式も多種多様である。本展ではそれを「画家」と「意匠」の二つの切り口から紹介している。
 第一部「大正イマジュリィの13人」(地階会場)では、雑誌『白樺』の芸術感をキーに、13人の画家──藤島武二、杉浦非水、橋口五葉、坂本繁二郎、竹久夢二、富本憲吉、高畠華宵、広川松五郎、岸田劉生、橘小夢、古賀春江、小林かいち、蕗谷虹児──が取り上げられている。橘小夢(たちばな・さゆめ)は名前も作品も初見。《水魔》と題された、河童に取り憑かれ水底へと引き込まれてゆく女性像は幻想的かつ官能的。多くの人が足を止めていた。ぜひまとまって作品を見る機会が欲しい。
 第二部「さまざまな意匠(イマジュリィ)」(二階会場)は、描かれたモチーフをキーに多様な画家たちの作品を取り上げている。ここでも目を引いたのは、「怪奇美のイマジュリィ」のコーナー。谷崎潤一郎の小説に添えられた水島爾保布による人魚像が美しい。そういえば、第一部にも高畠華宵による人魚像が展示されていた。怪奇小説、探偵小説の流行がこのような挿画を必要としていたことがよくわかる。
 図録は一般書籍として刊行されており、書店でも購入可能(山田俊幸監修『大正イマジュリィの世界──デザインとイラストレーションのモダーンズ』、ピエ・ブックス、2010)。[新川徳彦]

2010/12/08(水)(SYNK)

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