artscapeレビュー
オランダのアート&デザイン新言語
2011年02月01日号
会期:2010/10/29~2011/01/30
東京都現代美術館[東京都]
デザインを機能性やユーザビリティといった評価軸で見ていると、この展覧会は訳がわからない。そもそも「デザイン」なのになぜ「現代美術館」なのか。ここではテッド・ノーテン、マーティン・バース、マルタイン・エングルブレクト、タケトモコの4人のアーティストが取り上げられている。ノーテンとバースには物理的なモノとしての作品があるが、エングルブレクトとタケに至ってはモノは介在するものの、じっさいの作品は見る者と作者との「コミュニケーション」である。
既製の家具を燃やして樹脂で固めた作品で知られるバースの作品のなかでも、今回の展示で特に面白かったのは3種類の時計。アナログかと思えばデジタル、デジタルかと思えばアナログ。木彫によってコピーされたプラスチック製の椅子も見る者の先入観を裏切る。現代ジュエリー作家のノーテンの、指輪を封じ込めた透明なアクリル樹脂製のバッグも楽しい。パーティなどで女性が持っているバッグはあまりに小さくてなにが入るのだろうと思っていたが、じつは機能など不要なのだ。ノーテンはそうした本来の「用」を失ったモノから、わずかに残された機能の痕跡すらをも取り除いてジュエリーに仕立てている。
疑問なのは、「デザイン」というからには、こうした作品(非量産。多くが一点モノ)が、どこまで私たちの日常に降りてくるのだろうか、という点である。展覧会の企画者はこれを「新言語」という言葉で説明しようとしている。問題はモノを所有することではない。モノとそれを見る者との関係、見る者同士にコミュニケーションを生じさせるような表現手法に焦点を当てるのだ。その手法はアートとデザインとで共有されうる。たしかに、このような表現が冷蔵庫や洗濯機、ケトルや鍋のデザインに用いられれば、毎日が楽しくなりそうだ。人々のコミュニケーションのあり方にも変化を生じさせる可能性を秘めている。「アートはモノではない。デザインはカタチではない」という本展のキャッチコピーは象徴的である。
この展覧会は写真撮影が可能である。せっかくなので「建築はどこにあるの?」展(2010年4月29日~8月8日@東京国立近代美術館)で試みられたように、撮影・写真共有サイトに投稿というプロセスまでをも展覧会の一部として企画してもよかったのではないかと思う。課題はコミュニケーションなのだから。[新川徳彦]
写真(左から):マーティン・バース(CC / BY-NC-ND)、テッド・ノーテン(CC / BY-NC-ND)
2011/01/16(日)(SYNK)