2019年12月01日号
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artscapeレビュー

2011年05月15日号のレビュー/プレビュー

大久保潤「ちょっと訪ねたカンボジア」

会期:2011/04/01~2011/04/30

Green Caf[東京都]

珍しい展覧会を見た。大久保潤は1970年生まれ。1997年より横浜市港北区の社会福祉法人かれんに属して、主に絵画作品を発表してきた。ところが彼は写真にも強い興味をもち、18年もの間24枚取りのフィルムを週に1本のペースで撮影し続けてきたという。概算すると900本以上、2万2千カット余りの写真というわけで、この量だけでも尋常ではない。それに加えて彼のスナップ写真はのびやかさと集中力をあわせ持っており、被写体の配置もうまく決まっていてなかなか魅力的だ。普通は知的障害者のアート作品(アウトサイダー・アート、あるいはアール・ブリュット)というと、絵画を思い浮かべることが多いので、写真というのは意外な盲点なのではないだろうか。おそらく、絵画や版画と同じように、写真においても優れた才能を持つ者がたくさんいるはずだ。今回の展示を見てそんなふうに強く思った。
今回は1998年に家族とともに訪れたカンボジアへの旅を題材としている。写真の特徴としては、自分の反射像や影を取り込んだ作品が多いこと、被写体を画面全体にバランスよく散りばめていること、日付を必ず入れていることなどが挙げられる。ともかく、気持ちのよいエネルギーの波動が伝わってくるチャーミングな写真が多い。今回は14点とやや数が少なかったが、もっとたくさんの写真を一度に展示できるような機会があればとても面白いと思う。ただし、古い写真はネガごと捨てられてしまったそうだ。残っているものだけでも、もっと彼の写真を見てみたいと感じさせる展覧会だった。

2011/04/06(水)(飯沢耕太郎)

東日本大震災(舞浜・浦安)

舞浜、浦安[千葉県]

テレビでもよく報道される液状化の被害を確認すべく、舞浜から浦安を歩く。駅は真っ暗で、ディズニーランドは完全に沈黙していたが、イクスピアリはもう営業を再開していた。駅の反対側には、ショートケーキ住宅街があり、塀や道路がガタガタになっており、あちこちで工事中である。浦安に向かうと、平衡感覚を喪失するようなランドスケープ的な歩道が続く。地震で壊れたものは見かけなかったが、地盤の液状化で激しく傾き、使用不可になった交番など、小さな構築物の被害が認められた。目線より上はまったく日常の風景だが、足元、そして地下のインフラがズタズタになり、公園や公共施設、あるいはマンションに仮設トイレが多数設置されていたのも印象的である。地面には無数の亀裂が走り、段差が多数出現し、仙台の中心部よりダメージが大きいのではないかと思った。

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2011/04/06(水)(五十嵐太郎)

2010台北国際花の博覧会

会期:2010/11/06~2011/04/25

台北市内(圓山公園エリア、新生公園エリア、美術公園エリア、大佳河濱公園エリア)[台湾・台北市]

とにかく人が多く、室内展示を見ることは、ほぼあきらめた。もっとも、花博だけに、各国の庭園など、屋外展示が多い。パヴィリオンは、植物や自然との関係を表現するもので、その方法はおおむね以下の5パターンに分けられる。第一に、花茶殿のように、自然を眺める東屋という古典的なタイプ。第二に、自然そのものを室内に抱え込んだ空間をつくるもの。例えば、稀少植物を見学できる温室になった未来館。第三に、壁面を植物が覆ったり、屋上緑化を行なうなど、外部に自然の要素を与え、建築と植物の共生を視覚化するもの。例えば、緑の屋根に登ることができる、ドリーム館。第四に、自然の形態を模写したような造形。例えば、サナギのようなチョウ館、6枚の花びらが重なりあうイメージのアロマ館。そして第五に、自然素材の積極的な活用として、木材による大空間を実現した花の夢広場である。パヴィリオンのデザインで、これはというのは少ないが、若手建築家の劉克峰が設計に関わった、発光するペットボトル・ウォールの流行館は目立つ。

2011/04/07(木)(五十嵐太郎)

川島小鳥『未来ちゃん』

発行所:ナナロク社

発行日:2011年4月1日

まさに「お待たせしました!」という写真集。僕は昨年4月のテルメギャラリーでの松岡一哲との二人展の頃からずっと注目していたし、一般的には『BRUTUS』(2011年12月15日発売号)の写真特集の表紙で「ぶっ飛んだ」のではないだろうか。刊行がこれだけ待ち望まれていた写真集は、このところあまり記憶にない。本格的な写真集の刊行前に、講談社出版文化賞を受賞したというのも前代未聞ではないだろうか。
写真にとって被写体は絶対的とはいえないが、相当に重要な要素であることは間違いない。この写真集の場合、主人公である新潟県佐渡島の女の子「未来ちゃん」の天衣無縫な野生児ぶりはめざましいものがある。体を一杯使って走り回り、転げ回り、青洟を垂らしながら泣き笑うその姿を見ているだけで、心のなかに温もりが広がるような愉しさを感じる。ただ被写体がいくらよくても、それをきちんと受けとめて作品化する技と力が必要なわけで、1980年生まれの川島小鳥にはそれがしっかりと備わっているということだろう。もう既に大ブレイクの兆しが見えているので、このままどんどん突っ走ってもらいたい。また祖父江慎による写真集の装丁・デザインもさすがというしかない。横位置の写真を上下に重ねるレイアウトを採用したことで、写真の勢いが加速しているように感じる。ページをめくっていく速度が、写真が目の前にあらわれてくるリズムとぴったりシンクロすると、解放感に包まれ、思わず笑いがこぼれてしまう。
なお写真集の刊行にあわせて、東京・渋谷のパルコファクトリーで写真展が開催された(2011年4月8日~24日)。こちらは展示されている写真の数が250点余りに増え、「未来ちゃん」のパリ旅行時のスナップも入っている。悪くないが、大小の写真の散りばめ方がややうるさ過ぎたのではないだろうか。写真集の方が、すっきりと目に馴染んでくるように感じる。

2011/04/08(金)(飯沢耕太郎)

台北・百年印記─魅力古蹟攝影展/文学のナポレオン──バルザック特別展覧会

国立台湾博物館[台湾・台北市]

会期:2011年3月22日~6月19日(台北・百年印記─魅力古蹟攝影展)/2011年3月4日~4月8日(文学のナポレオン)
以前、ここでやっていた近代建築展が素晴らしく、日本の国立博物館でも見習ってもらいたい内容だったので、期待していたが、古建築写真展はハズレ。とくに解説や分類もなく、ただ壁に写真を並べただけのものである。代わりに、思いがけずバルザック展が良かった。展示の方法がカッコいい。十分な原資料がないところを、工夫した空間デザインにより、カバーしている。内容だけではなく、文化の成熟度はこういうところにあらわれる。

2011/04/08(金)(五十嵐太郎)

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