2021年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

2016年02月01日号のレビュー/プレビュー

山本爲三郎没後50年 三國荘 展

会期:2015/12/22~2016/03/13

アサヒビール大山崎山荘美術館[大阪府]

民藝運動のパトロンであった山本爲三郎(アサヒビール初代社長)が、大阪・三国の地に移築した「三國荘」をめぐる展覧会。まだ駒場に日本民藝館が立てられる前の1928年、柳宗悦(1889-1961)ら民藝運動のメンバーたちは自らの思想を実際の民藝品をもって展示するために、御大礼記念国産振興東京博覧会にパビリオン「民藝館」を出品した。これが移築後に「三國荘」と名付けられ、民藝運動の重要な拠点となる。ここで同運動に共鳴する人々の集まりを通じて、日本民藝館の創立が実現の運びと相成るからである。もちろん、三國荘とその調度品の一部は民藝運動の同人の作品でありながら、山本の自邸として敷地内に移築されてからは居住と生活の場でもあった。戦後、三國荘は山本家のもとから離れ個人の所有へ渡るが、その家具什器の一部は大山崎山荘美術館のコレクションとなっている。本展の見どころはなんといっても、三國荘の室内を再現した展示。その応接室と主人室は、民藝の同志たちの作品と日本のみならず世界から収集された民芸品からなっているが、西洋と東洋のものが渾然一体となりながら、ひとつの統一された世界観が成立しているのにあらためて感じ入る。当時、民藝の同人たちが集った応接室は、選定された調度品を山本家が実生活で使い、同運動の理想を体感していた芸術的空間だったのだから、なんとも羨ましい。[竹内有子]

2016/01/10(土)(SYNK)

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酒井稚恵 展

会期:2016/01/09~2016/01/17

楽空間 祇をん小西[京都府]

布を使かった立体作品やインスタレーションで知られる美術家、酒井稚恵の個展。《幕、きれば》というおめでたいタイトルの紅白幕の作品がギャラリーの町家空間を華々しく飾る。しかし、襖の裏側には白と浅葱色の縞、浅葱幕の作品が。作家自身が作品に寄せた言葉には、「幕、きれば、はじまり」とあり、「幕、きれば、おわり」ともある。シャンパンやファンファーレではじまりを祝い、火と涙でおわりを悼み、どちらにしても「あくびをして眠る」という。このように、いかにも詩的でファンタジックなメッセージが添えられているものの、作品自体はむしろ物質的である。酒井の作品は、水玉や縞、格子といった布の柄を規則的に糸で縫い絞るというもので、その様子は絞り染めの製作過程に似て、緻密な手作業の集積が魅力である。坪庭を挟んだ奥の部屋には、赤いギンガムチェックのシャツによる作品、《しあわせサンクチュアリ》が置かれた。それぞれ赤い部分を絞ったシャツと白い部分を絞ったシャツが半球状に吊るされてくっついて浮かぶ。一年のはじまりにふさわしい、清々しい展覧会であった。[平光睦子]



展示風景

2016/01/11(月)(SYNK)

シリア・失われた故郷 鈴木雄介 写真展

会期:2016/01/09~2016/01/24

ARTZONE[京都府]

ニューヨークを拠点に活動する報道写真家・鈴木雄介の個展。彼が2013年にシリアで取材した戦闘地帯とそこで暮らす人々の写真及び動画、そして2015年にレスボス島で取材したシリア難民の写真を展示した。恥ずかしながら筆者はシリアの状況について無知であり、本展でその現実を知り大きな衝撃を受けた。紛争がいったんこじれ出すともはや誰にも止められず、ひたすら負のスパイラルを転げ落ちていく。その様子は本当に痛々しくも恐ろしい。日本が同様の状況に陥らないことを心底から願う。シリアと難民に対して我々はどう対応すべきなのか。筆者を含む多くの日本人は返答できるレベルに達していない。まずは状況を把握すること。そのためにも本展の全国巡回が望まれる。なお、作者の鈴木とキュレーターの山田隼也は扇動的な態度を取らず、「まずは知ってほしい」の姿勢で臨んでいた。その冷静さは称賛されるべきだ。また本展では、動画の説得力が写真より明らかに上回っていた。やはりこれからは動画の時代なのか。筆者も勉強をせねばと自戒した。

2016/01/12(火)(小吹隆文)

中澤岩太博士の美術工藝物語──東京・巴里・京都

会期:2016/01/12~2016/02/27

京都工芸繊維大学 美術工芸資料館[京都府]

1902(明治35)年、京都高等工芸学校(現:京都工芸繊維大学)は、デザインの高等教育のため、国立の教育機関として三番目に設立された。美術工芸の近代化を図る地元の産業界の要望を受け、その創立を実現させたのが初代校長の中澤岩太(1858-1943)であった。本展は、工学博士/化学者・中澤の美術工芸に関わる業績を振り返る初めての展覧会。東京ではゴットフリート・ワグネルを補佐して窯業のほか多様な近代産業技術の革新に寄与、パリでは1900年の万博を実見し日本のデザインの刷新を図るべく、同校の教育用として西洋のデザイン資料の購入を浅井忠に依頼する。以後京都の美術工芸界では、図案と技法を研究しその成果発表の場を行なう四団体(京都四園)を立ち上げ、地場産業の活性化に貢献した。興味深いのは、デザイン教育で「科学と芸術の融合」を図った中澤自らも絵画・書・美術工芸を嗜む多才な人物であったこと。本展の見どころのひとつは、中澤自身の見応えある書画《宝珠》。同校の教員であった浅井忠や武田五一の作品に留まらず、彼の芸術家との交友関係(小山正太郎、松岡寿、富岡鉄斎)を示す資料も展示されている。さらに、中澤が率先して収集した西欧のアール・ヌーヴォーのデザイン(陶磁器・ポスター類)も多数あり、当時のデザイン改革に尽力した、中澤の熱き思いを感じることができる。[竹内有子]

2016/01/12(火)(SYNK)

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牡丹靖佳「gone before flower」

会期:2016/01/10~2016/02/06

アートコートギャラリー[大阪府]

鉛筆による線画と輪郭線を持たない色面がせめぎ合い、複雑で不確かで中心を欠いたまま揺らいでいるような世界を描き出す牡丹靖佳の絵画。過去の個展では物語世界を設定し、その約束事に沿って作品を展開させていたと記憶しているが、本展の新作には物語がなく、1点1点が独立した存在として展示されていた。それでも最初の部屋と通路を超えた先にある最後の展示室では、角材をラフに組んで山に見立てた構造物と、瀧をモチーフにした縦長の大作2点、色面の塗り方がテキスタイルのパターンのような横長の大作などが並ぶインスタレーションめいた空間が出現。観客を静かなカタルシスへと導くのであった。作家の新たな一面と変わらぬ一面が同時に現れた個展であった。

2016/01/14(木)(小吹隆文)

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