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2016年02月01日号のレビュー/プレビュー

顔真卿と唐時代の書──顔真卿没後1230年

会期:2015/12/01~2016/01/31

東京国立博物館東洋館8室/台東区立書道博物館[東京都]

今回で13回目を迎える東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画。2015年に没後1230年となった顔真卿(709-785)をはじめとする唐の名家の拓本、敦煌出土の宮廷写経、民間の書写など、唐時代の優品全105件が集められた。東博会場にはおもに「製本」と呼ばれる碑や刻石の全体が見られる巨大な拓本、書道博物館では製本を文字毎に切り離して仕立てた「剪装本」が中心に展示されている。書については語る知識を持たないのだが、学芸員解説で伺った拓本の話が興味深かった。すなわち、唐代中国の肉筆の書はほとんど残っておらず、石碑などに刻まれたかたちで残されている。人々はこれを拓本にとることで書の手本としたこと。人気のある碑は拓本をとられすぎて摩耗しており、そうするときれいな拓本が取れないために後代に補刻されることがあること。拓本にとられた文字の摩耗の具合や、後代の補刻(しばしばオリジナルとは違ってしまっている)を比較することで、拓本がとられた時期を推定できること、などである。いずれも複製品とはいえ古い時代の拓本ほどオリジナルの書に近く、価値があるという。また優れた書の複製をつくるために、木の板や石に手本を刻み、拓本の技法で複製する方法(模刻)が行なわれてきた。白黒は反転するものの、通常の版画技法と異なり紙を版に乗せて上から墨で写しとるために、文字を刻むときに反転させる必要がない。拓本は印刷や写真が発達する以前におけるすぐれた複製技術なのだということを知った。[新川徳彦]

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2016/01/31(日)(SYNK)

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プレビュー:村川拓也『終わり』、手塚夏子『15年の実験履歴──私的な感謝状として』

先月は京都造形芸術大学でBONUSのイベントを行ないました。来客者の方たちからはおおむね好評だったのですが、自分のイベントを自分では批評できないというジレンマに陥っております。取り上げるのが恥ずかしいといった類のためらいではなく、批評対象のインサイダーになってしまうと批評のポジションに立てず、ゆえに物理的に批評できなくなるわけです。このことは自分に降りかかった「前衛のゾンビ」(藤田直哉)問題といっても良いかもしれません。ご覧になった方、どうかぜひあのイベントの批評を書いてくださいませ。
さて、今月は秋季に負けないくらいダンスの公演・イベントラッシュです。そして横浜ダンスコレクションTPAM国際交流基金(障害×パフォーミングアーツ特集)『〈外〉の千夜一夜 VOL. 2』と横浜でのプログラムがとても多いことが特徴です。その喧騒のなかでかき消されてしまいそうですが、STスポット横浜での二つの公演が要注目なのです。
ひとつは村川拓也『終わり』(TPAMショーケース参加作品、STスポット横浜、2/12-14)。村川は2011年の『ツァイトゲーバー』で介護をテーマにした舞台をつくり話題になった作家。その彼が今回ダンスを扱った舞台作品を上演します。昨年やはりSTスポット横浜で上演された相模友士郎『ナビゲーションズ』がそうだったように、出発点がダンス分野ではなく演劇やパフォーマンスの上演を経た作家がいまダンスに注目しているということが、筆者としてはじつに興味深いのです(同じような感慨は2014年の多田淳之介『RE/PLAY (DANCE Eidt.)』からも受けとっていました)。とくに無視してはならないのは、相模も多田も「ダンス」に一定の距離を保ちながら、しかし、けっして軽んじるわけではなく、それどころか、ダンスの可能性を多くの振付家たちが思いつかないような仕方で引き出していることです。村川のこの新作にも同様の期待を抱いてしまいます。
もう一作は手塚夏子『15年の実験履歴──私的な感謝状として』(STスポット横浜、2/15-16)。昨年の山縣太一×大谷能生『海底で履く靴には紐が無い』(これもSTスポット横浜だ!)公演のアフタートークでも話題になっていたことですが、いまの日本の演劇が「チェルフィッチュ以後」と呼ばれるその光に隠れた影の歴史として「手塚夏子以後」というべき側面があることは、忘れてはなりません。いまだ「手塚夏子」に出会っていない若い皆さんにこそ、お勧めしたいです。

2016/01/31(日)(木村覚)

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