artscapeレビュー
2016年02月01日号のレビュー/プレビュー
JIDAデザインミュージアムセレクション Vol.17 東京展
会期:2016/01/14~2016/01/18
AXISギャラリー[東京都]
JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会)の会員によって推薦されたプロダクト111点から、今回はゴールドセレクション賞4点とセレクション賞39点が選ばれた。ゴールドとなった製品は、ワインセーバー(株式会社デンソー デザイン部)、S660(株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター)、TOYOTA i-ROAD(トヨタ自動車株式会社)、Jコンセプト 紙パック式掃除機 MC-JP500G, MC-JP500GS(パナソニック株式会社)。デンソーのワインセーバーは開栓済みのワインに蓋をして空気を抜き、酸化を防ぐもの。自動車部品メーカーがなぜワインセーバーなのか。デンソーによれば、「カーエアコンおよび車載用小型ポンプの技術を活用」ということだそうである。スマートで高級感のあるデザインと、ハンズフリーで処理可能な構造、LEDランプによって状況を知らせてくれる機能性のバランスが優れている製品だ。パナソニックの掃除機は、PPFRP(ポリプロピレン繊維強化プラスチック)という素材を用いて軽量化したモデル。織物のように見える表面は、素材である樹脂の織り目をそのまま生かしたものだという。ホンダS660は、軽自動車規格のスポーツカー。選定理由には、個性とモデリング技術の高さが挙げられている。トヨタi-ROADはバイクのような使い勝手でありながら自動車の快適性を備えた3輪の電動パーソナル・モビリティである。
そのほかのセレクションでとくに印象に残ったプロダクトは、SWING BIN(株式会社プラスティックス)。円筒を斜めにカットした筒に薄い木の蓋が載せられたシンプルな室内用のゴミ箱で、蓋はただ斜めに乗っているだけなのだが、切断面の工夫によってスウィングするしくみが秀逸。このほか子供乗せ自転車・ハイディ ツー(ブリヂストンサイクル株式会社)、ドローン・ファントム3(DJI JAPAN株式会社)、介護支援用ロボットスーツ・HAL(サイバーダイン株式会社)などは、機能やデザインが優れているだけではなく、時代を象徴するプロダクトだ。[新川徳彦]
2016/01/18(月)(SYNK)
トーマス・ノイマン MORI・Thomas Neumann・ISHI
会期:2016/01/16~2016/02/13
ギャラリーノマル[大阪府]
2013年にギャラリーノマルで2人展を行ったノイマンが、昨年10月に出版した写真集『The Japanese Series』の収録作品で日本初個展を開催した。作品は《MORI》《ISHI》と題した2つのシリーズ。《MORI》は山林を高い位置から見下ろす角度で撮影したストレート写真で、ネガ画像を定着させている。そのせいか水墨画のような仕上がりで、最初のうちはCGかと思った。それに対して《ISHI》は鑑賞用の水石をアップで撮影したものだ。どちらも長辺1メートルを超えるラージサイズでプリントされており、それこそ山水画の屏風や掛軸を見ているような気持にさせられる。縮景から大自然を想像するのは東洋美術の伝統だが、それが通用するこれらの作品は多くの日本人にとってアプローチしやすいものであろう。トーマス・ルフに師事し、コンセプチュアルな思考が骨の髄まで染み込んでいるであろうドイツ人作家から、このような作品が生み出されたのは興味深いことだ。
2016/01/19(火)(小吹隆文)
冬木遼太郎展
会期:2016/01/19~2016/02/06
SAI GALLERY[大阪府]
「STOP THE TIME」というフレーズをしばしば作品の一部に用いる冬木遼太郎。本展では、ミラーボード製の「STOP THE TIME」の文言で、画廊の3壁面を埋める作品を発表。他には、氷製の2匹のネズミとそれらが溶けた痕跡を同じアングルで撮影した写真、二股の木の枝を途中で繋ぎ合わせた作品、大きな縦長のミラーボードの前に、背面にコローの自画像の模写を描いた円形のミラーボードを吊るした作品などがあった。ミラーボードには周囲の情景が写り込むが、それらは常に今でしかない。その意味で、あくまでも解釈上ではあるが、冬木は時間を止めることに成功したと言えるだろう。現実に時間を止めることは不可能だが、アートなら創造力とレトリック次第で不可能を可能にできる。冬木が本当に表現したいのは、アートへの信頼かもしれない。
2016/01/19(火)(小吹隆文)
魔除け──身にまとう祈るこころ
会期:2015/12/17~2016/02/17
文化学園服飾博物館[東京都]
「魔除け」と聞いて無信心な筆者がイメージするのは、お守りやお札、注連縄程度。このうち後者ふたつはおもに家や場を守るものなので、個人が身につけるものとしては袋に入ったお守りぐらいであろうか。しかしながら、世界を見渡すとじつに多様な「魔除け」が存在する。アクセサリーのようなタイプや、化粧による魔除けも存在するが、本展でおもに取り上げられているのはアジア、アフリカ、東欧において衣服の一部として施される魔除け。由来を知らない者には手の込んだ装飾に見えるし、実際に現代では本来の意味を失って装飾化しているものもあるようだが、キャプションに書かれた年代を見ると分かるように、けっして過去の遺物ではない。
展示では衣服における魔除けのタイプをいくつかに類型化したうえで、それぞれの地域における魔除けの衣装を紹介している。類型のひとつは魔除けをまとう身体の部位。頭部や急所を覆ったり、目が届かない背中を護ったり、襟や袖などの開口部から悪いものが入り込まないように装飾する。着物の背に糸で縫い印を付ける日本の「背守り」には、子どもの背中から魔が入り込むことを防ぐ意味がある。クウチと呼ばれる遊牧民(アフガニスタン)のヴェールには後頭部から背中にかけてサソリの文様が施されている。トルコの帽子は日除けの機能に加えて、魔除けの意味を持つ装飾が施されることが多い。もうひとつの類型はデザイン。意匠、文様、形、色彩に魔除けの意味が込めらる。たとえば日本の男児着物に用いられている麻の葉文様には、大麻が勢いよく育つことから子どもの健やかな成長への願いが込められてる。色彩について言えば、赤は多くの地域で魔除けの意味を持つ色だ。素材もまた魔除けのデザインにとって重要な要素であり、貝や動物の牙、金属などのビーズが用いられる地域がある。
「魔除け」を身にまとうのは、子どもや女性が多い。ただし、その魔除けの意味の強さには地域差があるようだ。日本の例として紹介されているものは比較的穏やかで、招福の意味を兼ね備えているものが多い。対して、中国で子どもの衣服に用いられる衣装には虎や五毒(サソリ、ムカデ、クモ、ヒキガエル、ヘビ)を模ったものが見られる。色彩も非常に強い。その背景には「毒をもって毒を制す」という考えがあるのだという。他に興味深い例として、素材の代替がある。コヒスタン人(パキスタン)の男児用ベストは、金属音で魔を除けるための付けられる銀貨の装飾が一部プラスチックになっており、貝のビーズは白いガラスビーズに、袖口から魔が侵入することを防ぐ銀のビーズは洋白のファスナー(!)に置き換えられている。コストの問題だろうと想像されるが、素材が代わっても魔除けの効果は保たれるのだろうか。[新川徳彦]
2016/01/19(火)(SYNK)
プレビュー:作家ドラフト2016 近藤愛助 BARBARA DARLINg
会期:2016/02/02~2016/02/28
京都芸術センター[京都府]
若手アーティストの支援・発掘を目的とした京都芸術センターの公募展。毎回1人(組)の審査員を立てるが、今回その任を務めるのは美術家の小沢剛だ。彼が104件の応募から選んだのは近藤愛助とBARBARA DARLINg(バーバラ・ダーリン)の2人。近藤の作品は、彼の祖父が第2次大戦中に収容されていたアメリカの日系移民収容施設で撮影した写真と、彼自身が祖父になり替わるパフォーマンス映像。ダーリンの作品は、東北の海岸を車で旅するロードムービーで、台詞は「愛している」の一言のみという。両者に共通するのは、記憶が土地や個人を突き抜けて社会への問題提議になるということ。会期中の2/7(日)には2人の作家と小沢によるトークも予定されており、それぞれの作品や選出理由をより詳しく知ることができるだろう。
2016/01/20(水)(小吹隆文)