artscapeレビュー
2016年03月15日号のレビュー/プレビュー
ようこそ日本へ:1920-30年代のツーリズムとデザイン
会期:2016/01/19~2016/02/28
東京国立近代美術館[東京都]
近年、国立近美の常設は攻めの姿勢を感じるが、今回は建築の動向に絡めて、全室を構成していた。改めて篠原一男、吉田五十八、吉村順三など、(主に日本)画家が建築家に住宅を依頼していた歴史を痛感する。一方で、現在はどうなのだろうかと思う。「ようこそ日本へ」展は、戦前の資料を多く紹介しながら、ツーリズムとデザインの関係を扱う。テーマの設定が国策に沿う企画は少し気になってしまうが、内容は面白いものだった。
2016/02/22(月)(五十嵐太郎)
金川晋吾『father』
発行所:青幻舎
発行日:2016年2月18日
何とも形容に困る、絶句してしまうような写真集だ。金川晋吾は、サラ金で借金を作っては「蒸発」を繰り返す父とその周辺の状況を、2008~09年にかけて撮影した。それらの写真群が写真集の前半部におさめられ、同時期に金川が執筆した「日記」をあいだにはさんで、後半部には「毎日自分の顔を一枚と、写す対象は何でもいいので何か一枚」撮るようにと父に指示して撮影してもらった「自撮り写真」1000枚以上が収録されている。
金川が、なぜ父の写真を撮り始め(撮ってもらい)、このような写真集にまとめたのか、その動機の明確な説明はない。だが、写真撮影を通じて、人間存在の不可解なありようを解きほぐし、見つめ直そうという強い意志を感じとることができる。否応なしに始まった写真撮影の行為が、次第に確信的になっていくプロセスが、ありありと浮かび上がってくるのだ。特に、父が撮影した「自撮り写真」を見ていると、それらが何とも言いようのない力を発していて、じわじわと見えない糸に絡めとられていくような気がしてくる。ほとんど無表情で、カメラを見つめる中年男の顔、顔、顔の羅列は、写真を撮るという行為にまつわりつく「怖さ」(同時に奇妙な快感)を、そのまま体現しているように思える。気になるのは現在の父との関係だが、そのあたりをフォローした新作の発表も期待したい。
なお、作者の金川晋吾は1981年京都生まれ。神戸大学発達科学部卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科(先端芸術表現専攻)で学んだ。本作が最初の本格的な写真集になる。
2016/02/23(水)(飯沢耕太郎)
震災被災地めぐり
[宮城県]
ドイツの建築家、地方紙の記者とともに、被災地をまわる。最初に伊東豊雄による《みんなの家》、第一号を再訪した。公園のなかの仮説住宅地で、最初はいっぱいだったが、多くの住民はすでに次の生活へ移行し、かなりここを出ているようだ。ひと気があまりない。続いて、七ヶ浜へ。コンペのときに審査員を担当した乾久美子の七ヶ浜中学校に立ち寄るが、職員が対応できない日とぶつかり、外観のみを見学した。それでも小さなスケール感や透明感を把握することはできる。次に高橋一平の遠山保育所を再訪する。まわりの家より低いスケール感が、中学校と共通している。新しく海辺にできた妹島和世による月浜の波打つ《みんなの家》へ。漁業施設を支援するものだが、目の前でコンクリートの土木工事が進む。ここでも居住者なしに壁が出現する。ほかに大西麻貴の東松島の子供の家(まわりにかわいらしいデザインの雰囲気が拡張していたのが微笑ましかった)、妹島の宮戸島の《みんなの家》を再訪した。いずれも仮設住宅地は閑散としてきた。
写真:左=上から、《みんなの家》、七ヶ浜中学校、遠山保育所 右=上から、子供の家、月浜の《みんなの家》、宮戸島の《みんなの家》
2016/02/24(水)(五十嵐太郎)
コアハウス
[宮城県]
竣工:2012年
牡鹿半島へ。アーキエイド、塚本由晴らによる《コアハウス》を再訪する。福島では《コアハウス》のシステムが活用されている。敷地のお寺では再建工事が進行中だった。この先にスタジオ・ムンバイの《夏の家》が移築されている。女川は訪れる度に劇的に風景が変化している。かさ上げで地形が変わり、道路や街区のパターンも変わり、震災遺構は交番ひとつだけ。坂茂による駅前には新しくアウトレットモールのような商業空間が出現し、まるで別の街である。本当に昔の様子をしのばせるものがほとんど消えてしまった。仙台に戻る途中、石巻において門脇小に立ち寄る。焼けた建物には覆いがかぶさったまままだ。手前の住宅地跡はかさ上げで埋もれようとしている。が、3.11直後にコンビニの跡地に掲げられた「がんばろう石巻」の場所だけが残っていた。近づくと矢印で案内も出ており、被災を証言する数少ない巡礼地に格上げされている。
写真:左=上から、《コアハウス》、女川駅 右=上から、女川駅前交番、女川駅前商業空間、看板「がんばろう石巻」
2016/02/24(水)(五十嵐太郎)
第39回東京五美術大学連合卒業・修了制作展
会期:2016/02/18~2016/02/28
国立新美術館[東京都]
見た順に書くと、まず東京造形大学。なぜかここはいつも迷路のような会場構成になってるうえ、絵画、彫刻という形式から外れる作品も多いので一見にぎやかだが、男女がチューする4点セットの巨大絵画を出した谷崎桃子以外は大したことない。日本大学芸術学部は例年どおり見るべき作品はなく、もっとも人数の多い多摩美術大学もいつになく佳作が少ない。そんななかでも、迷路とスプレーペインティングによるこれも大作4点セットの安部悠介が際立っていた。個人的にはアラビア半島の地図とアラブ人、戦車、戦闘機を看板絵のように描いたジャマル・イビティハルが場違いで好感を持ったが。女子美術大学は凡作の山だが、身近な人たちのスナップ写真を12点の油彩にした大武唯は、並べ方に難があるにしても発想は評価したい。武蔵野美術大学はカスも多いが、秀作も多い。プリント柄や刺繍の布を貼り合わせて表装に仕立てた池上怜子は、日本絵画のパレルゴンを抽象画として見せているし、井上真友子の《歩道橋》は「FACE2016」の《嵐の前》ほどではないけど勢いを感じさせる。彫刻では小さなトルソを14点ほど並べた堀田光彦に注目したい。
2016/02/25(木)(村田真)