artscapeレビュー
2016年03月15日号のレビュー/プレビュー
大巻伸嗣「くろい家」
会期:2016/01/30~2016/03/13
くろい家[東京都]
北千住の駅から10分ほど、狭い路地を入ると見えてきた黒塗りの3階建ての家が目的の地。受付でまず2階に通され、真っ暗な部屋に導かれる。そこは手すりのついた桟敷席になっていて、正面奥の天井から薄光が射し、ときおり白煙とともに大きなシャボン玉が噴き出してくるのが見える。白いシャボン玉はゆっくり降下して1階に消えていく。再び受付に戻ると今度は1階奥の部屋に案内される。そこはいま2階で見てきた白煙やシャボン玉が床に落ちるまでを見られるという趣向。これは昨年の越後妻有での廃屋を使った《影向の家》と基本的に同じ構造だが、越後妻有では廃屋を使った似たような雰囲気の作品が多くて目立たなかったのに対し、こちらのほうは下町情緒の漂う場所込みで印象深かった。でも最近、シャボン玉職人っぽくなってないか?
2016/02/29(月)(村田真)
久保ガエタン「記憶の遠近法」
会期:2016/01/23~2016/03/13
たこテラス[東京都]
かつて千住地域のシンボル的存在だった「お化け煙突」。1964年に取り壊された千住火力発電所の4本の煙突が、見る角度によって3本になったり2本になったり1本にもなるのかな? とにかく本数が変わって見えるのでそう呼ばれていた。このお化け煙突のことを知り、そこから物語を紡ぎ出して作品化したのが久保ガエタン。会場のたこテラスを訪れると、横のドアの鍵を開けてくれる。入ると、路地のような中庭のような内部なのか外部なのかわからない通路に沿って、これも部屋のような物置のようなよくわからない空間がいくつか並び、そのなかに解体されたお化け煙突の素材を含む陶による300分の1の煙突模型や、東電から借りた火力発電所の模型、作者の曾祖父が持っていた戦艦の模型、お化け煙突の青焼き図面、ボルドー近郊に住むガエタンの祖父のルーペ、デュシャンを思わせる自転車の車輪、火力発電所で働いていた人のインタビュー映像などが展示されている。お化け煙突に触発されたのはわかるけど、時空が飛んで煙突に直接関係ない資料が示されたりしているのでつかみどころがない。そもそもたこテラスという妙な場所を会場にし、チラシに向かいの公園にあるタコ型の遊具のイメージをあしらっているので、てっきりタコ関連の展覧会かと思ったくらいだ。どうせならタコとお化け煙突を合体させてほしかった。
2016/02/29(月)(村田真)
魔女の秘密展
会期:2016/02/19~2016/03/13
ラフォーレミュージアム原宿[東京都]
西洋の魔女に関する資料を集めているというので意外に面白いのではと思って足を運んだが、焦点がボケており、内容も不十分だった。会場が美術館でないから、貸し出せる絵画の質が低いのは仕方ないにしても、魔女裁判の再現映像とかは、ヘタな現代アート風である。ただし、拷問する器具の迫力はあった。フェルメールがタイトルにある展覧会は彼の1点とその他同時代のオランダ絵画多数の構成になるしかないが、森アーツセンターの「フェルメールとレンブラント」展は、「魔女の秘密」展の直後なだけに安心して見られる。ただし、レンブラントも1点のみだった。大文字としての宗教画や歴史画ではない、サブカルチャー的な題材の絵が発展した17世紀オランダのおさらい的な内容である。
2016/02/29(月)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス|2016年03月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
地域アート──美学/制度/日本
現在、日本のあちこちで「地域アート」が盛んです。
現代アートの最先端は、「地域アート」にあると断言することも可能です。
この本は、そこで作られている作品や起こっている現象について、真剣に考察することを目指した本です。第一線で活躍するアーティストや、学者、批評家の方々に参加していただき、現在の日本で隆盛している「地域アート」について、真剣に考察し、討議し、提案しようとするものです。[出版社サイトより]
米軍が見た東京1945 秋──終わりの風景、はじまりの風景
著者が冒頭で大島渚の言葉──「敗者は映像を持たない」──を引用するように、終戦前後の日本は日本人自身による写真記録が空白となる時代である。「都市の記憶における空白を埋める」ために編まれた本書は、米軍が1945年に撮影した170点以上の写真によって構成されている。巻末には本書に掲載されている米国立公文書館の所蔵写真ナンバーを収録。
これからの建築士──職能を拡げる17の取り組み
建築への信頼が問われる今、必要なのは100万人の「建築士」のバージョンアップだ。専門性を活かしながら、新たな領域と関係性をつくり出して活動する17者の取り組みを、本人たちが書き下ろした方法論と、核心を引き出すインタビューによって紹介。日本全国の建築士が今できる取り組みを見つけ、仕事の幅を拡げられる1冊。 [出版社サイトより]
LIXIL BOOKLET 文字の博覧会─旅して集めた“みんぱく”中西コレクション─展
2016年3月17日〜5月27日のあいだLIXILギャラリーで開催している「文字の博覧会─旅して集めた“みんぱく”中西コレクション─展」のブックレット。国立民族学博物館(通称“みんぱく”)に収められたた中西亮氏によるコレクションを中心に、世界のさまざまな文字の魅力を豊富な図版とともに紹介する。言語学者の西尾哲夫氏やアートディレクターの浅葉克己氏、グラフィックデザイナーの永原康史氏らのテキストを収録。
藤幡正樹 Anarchive No.6
アンヌ=マリー・デュゲ氏の企画出版シリーズ「Anarchive」による、メディア・アーティスト藤幡正樹氏の作品集。1970年代のアニメーション作品や、CG作品、コンピューターによる彫刻、1990年代以降のインタラクティブ作品、GPSを用いた大型プロジェクトなど、ほぼすべてを網羅。作品に関する論考や資料、作家自身による作品解説などを収録。本書は作家のレトロスペクティブであると当時にメディア・アート史のアーカイヴでもある。さらに、専用アプリ(iOSのみ)を用いて、過去のインスタレーションの3Dモデルを、AR(拡張現実)技術によって体験することができ、テクノロジーとアーカイヴをめぐるこうした試みは藤幡氏の最新作でもある。
リアス・アーク美術館常設展示図録──東日本大震災の記録と津波の災害史
リアス・アーク美術館は、震災発生直後から約2年のあいだ行なった震災被害記録、調査活動によって約30,000点の写真、被災物約250点を収集。これらの資料は、「東日本大震災をいかに表現するか、地域の未来の為にどう活かしていくか」をテーマとして編集され、2013年4月に常設展示として資料の一部が公開された。本書は被災現場写真108点、被災物61点、その他歴史資料等約30点の写真を掲載し、写真解説、キーワード等のテキストをすべて収録している。 また、同常設展を東京地区で初めて大規模に紹介する展示として、目黒区美術館で「気仙沼と、東日本大震災の記憶」展が3月21日まで開催している。
2016/03/14(月)(artscape編集部)