artscapeレビュー
2016年03月15日号のレビュー/プレビュー
小樽の近代建築
[北海道]
北海道へ。小樽に行くのは学生のとき以来か。ここでも外国人の観光客が多いことに驚かされる。エキゾチックな街並みが残っているのは、1890年代から1910年代頃に貿易や商業で栄え、その時期につくられた近代建築がかなり残ったことが要因だろう。が、当時、辰野金吾や佐立七次郎らの前衛に設計を依頼した先進性が、いまの北海道の行政や施主にあるのだろうかと思うと、心もとない。小樽の近代建築は、明治末において洋風のバタくさい啓蒙的な存在だったはずだ。しかし、時を経て、キャラ変が起き、レトロなメルヘン建築に認定される。加えて、観光目的に擬近代建築が新しく参入し、本物が混ざったテーマパークの様相を呈している。それだけに、純モダニズムの文学館・美術館は清々しい。
写真:左=上から、旧北海道拓殖銀行小樽支店、日本銀行旧小樽支店、旧三井銀行小樽支店、旧日本郵船小樽支店 右=上から、小樽オルゴール堂堺町店、小樽オルゴール堂本館、小樽駅、小樽文学館・美術館
2016/02/25(木)(五十嵐太郎)
杉浦邦恵「Little Families; 自然への凝視 1992-2001年」
会期:2016/01/30~2016/02/27
タカ・イシイギャラリー東京[東京都]
杉浦邦恵はシカゴ美術館付属美術大学でケネス・ジョセフソンに師事し、1967年に同大学を卒業後、ニューヨークに移って、当地で作品制作を続けているアーティスト/写真家である。近年は主にフォトグラム作品を制作しているが、今回のタカ・イシイギャラリー東京での個展では、そのなかから生きものをテーマにした作品を展示した。
フォトグラムはいうまでもなく、印画紙上にモノを配置し、光を当ててその輪郭を定着する技法だが、そのモチーフとして生きものが使われることはほとんどない。だが、杉浦は主にコントロール不可能な動物や人間を被写体にしていて、そのことが彼女のフォトグラム作品に、偶発的に生み出された陰翳や形がもたらす、軽やかな律動感を与えている。例えば、今回展示された「The Kitten Papers(子猫の書類)」(タイトルが素晴らしい)では、「暗室の感光紙の上に一晩中ほっておかれた」二匹の子猫の動きの軌跡を、繊細なモノトーンの画面に定着した。ほかに、蝸牛をモチーフにした「Snails」、蛙をジャンプさせた「Hoppings(飛び跳ねる)」など、身近な、小さな「自然」のありようを見つめることで、そこから驚きや感動をともなうイメージをつかみ取ろうとする姿勢は、どこか俳句のようでもある。19世紀以来の伝統的手法であるフォトグラムは、まださまざまな方向に伸び広がって行く可能性を秘めているのではないだろうか。
2016/02/26(金)(飯沢耕太郎)
500m美術館vol.17 The 4th Sapporo 500m Gallery Award! Exhibition
会期:2016/01/30~2016/03/25
札幌大通地下ギャラリー500m美術館[北海道]
札幌にて近代の建築、永照寺や新栄寺大師堂などを見ていたら、雪が降ってきたので、地下街を散策する。最後は500m美術館にたどり着く。ギャラリーアワードの展示を開催中だった。高田洋三による雪まつりの制作風景の異化的な写真と、山崎阿弥による大量の紙を使った壁面を這うような長大なインスタレーションが設置されていた。それにしても、500mということは、村上隆の五百羅漢でも十分に足りる長さである。
写真:左上=新栄寺、左下=高田洋三 右=山崎阿弥
2016/02/26(金)(五十嵐太郎)
となりの人びと──現代美術in春日井
会期:2016/01/30~2016/02/28
文化フォーラム春日井、まちなか会場(丸十ビル・元薬局・蔵)[愛知県]
名古屋へ。トリエンナーレの地域展開事業である現代美術in春日井「となりの人びと」展へ。モバイルトリエンナーレの会場になった文化フォーラム春日井では、設楽陸、竹田尚史、今井俊介、鋤柄ふくみらの作品が展示されていた。結構、多くの人が来ていたことに感心する。今回、春日井では徒歩圏で移動できるまちなか会場も設定され、丸十ビル、蔵、元薬局も訪れる。村田仁は、蔵の前で耳を傾ける音のインスタレーション。大崎のぶゆきと森北伸のユニット144号室は、部屋の中に空間をつくる。また大崎はある人物の記憶の痕跡や変容をたどるインスタレーションを行なう。
写真:左=上から、設楽陸、竹田尚史、今井俊介、鋤柄ふくみ 右=上から、村田仁、大崎のぶゆき、大崎のぶゆきと森北伸のユニット
2016/02/27(土)(五十嵐太郎)
「ピカソ、天才の秘密」展
会期:2016/01/03~2016/03/21
愛知県美術館[愛知県]
先日、宮城県美術館でやっていた展示の巡回かと思いきや、まったく別企画だった。いわゆるピカソらしいキュビスムの絵になる前の10代の子どものときの正確なスケッチから、青の時代、バラ色の時代までに焦点を当てる。ここを切り出すと、1901年からの約10年の変化と成果のすごさが浮き彫りになる。
2016/02/27(土)(五十嵐太郎)