artscapeレビュー
2016年04月15日号のレビュー/プレビュー
トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニー「Trisha Brown: In Plain Site」
会期:2016/03/19~2016/03/21
京都国立近代美術館 1階ロビー[京都府]
「KYOTO EXPERIMENT 2016 SPRING」公式プログラム観劇6本目。
トリシャ・ブラウンの初期作品群をオムニバス形式で上演する本作。(90年代に発表された1作品を除き)1973年~1983年の約10年間のエッセンスを凝縮したプログラムが、京都国立近代美術館の1階ロビーにて上演された。数分~10分ほどの小作品が計13個、吹き抜けの階段や天上高のあるロビー、10mほどの壁など、開放感ある空間の中で移動しながら上演される。客席はなく、観客もまた移動しながら鑑賞する。
白が基調の空間に、白に統一された衣装のダンサーたちは、ニュートラルで幾何学的に構成された振付を淡々と繰り返す。だが、水平/垂直、直角や斜線、並列の正面性/向き合った左右対称性など身体の向きの変化、フォーメーションの変化、空間との関係性など、さまざまなバリエーションを加算的に加えていくことで、運動の見え方は複雑に変化する。また、幾何学的に分節化された単位の反復がズレをはらむことで、ダンサーの従事する運動そのものは変化しなくても、観客の知覚の方が変容する。ミニマルで抑制の効いた振付と構成の明晰さが、そのことをより際立たせる。一方で、45度に傾けた棒の角度をキープしながら、頭や爪先など支える身体部位を入れ替える、横倒しにしたダンサーの身体を数人で支えながら、壁=90度回転した床であるかのように歩かせるなど、空間を身体で測定していくような試みもなされる。作品はいずれも、数理的な構成や幾何学的な厳格性において徹底しているが、同時にユーモアをたたえ、ボーカル入りの楽曲の使用とあいまって、とても軽やかだ。
(メディウムとしての)身体の即物性、分節化された単位への還元、単位の反復とズレによる知覚の変容など、ミニマル・アートとの共通性。制度的空間であると同時に物理的スケールに規定されたミュージアムの空間、その中で特権的な眼差しとして振る舞いながらも、身体的存在であることから逃れられない私たち観客。そして、通常は「物質的」存在である芸術作品を収集・保存・展示する美術館において、テンポラルでエフェメラルな「舞台芸術」の「再演」を行なうこと。本作の上演は、約30~40年前のブラウンの諸作品の単なる回顧にとどまらず、生成された時空間の限定性から切り離されたかたちで「作品」を収集・提示する「美術館」の制度性を浮き彫りにするとともに、再生装置としての可能性をも示唆する。「美術館」の空間で上演されることの(複数の)意義が、十分に感じられた公演であった。
トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニー「Wall Walk(from Set and Reset, 1983) 」
レンバッハハウス(ミュンヘン)、ダン・フレヴィンギャラリー 2014
(c)
Städtische Galerie im Lenbachhaus und Kunstbau München
2016/03/20(日)(高嶋慈)
東京藝術大学コレクション 麗しきおもかげ 日本近代美術の女性像
会期:2016/03/05~2016/04/17
名古屋市美術館[愛知県]
名古屋市美の「麗しきおもかげ」展は、東京藝大のコレクションをベースに女性を描いた日本近代の絵画を総覧する企画である。知らない作家も多く、だからこそ個別の特徴よりも時代のモードの変遷が感じられた。2階の展示は、日本画科の卒業制作に絞る。こうして通覧すると、確かに洋画よりも日本画の方が漫画やアニメに近いことがよくわかる。
2016/03/20(日)(五十嵐太郎)
Assembridge NAGOYA プレイベント 現代美術展「パノラマ庭園 ─動的生態系にしるす─」
会期:2016/02/26~2016/03/27
Minatomachi POTLUCK BUILDING[愛知県]
名古屋港のエリアに向かい、新しいアートと音楽の拠点となった、港まちポットラックビルを訪れた。「パノラマ庭園」展は、日常を異化する強烈な色彩の城戸保と玉山拓郎を紹介する。
写真:上=港まちポットラックビル、下=「パノラマ庭園」展
2016/03/20(日)(五十嵐太郎)
MAT Exhibition vol.1 ペーター・フィッシュリ/ダヴィッド・ヴァイス 毛利悠子「THE BEGINNINGS(or Open-Ended)」Part2
会期:2016/02/26~2016/03/27
Minatomachi POTLUCK BUILDING 3F:Exhibition Space[愛知県]
そして「THE BEGINNINGS」展は、「事の次第」と毛利悠子の新作を取りあげ、後者は前者のループする機械仕掛けを継承しつつ、スキャンの反復とズレによる心霊的なイメージを生む。
2016/03/20(日)(五十嵐太郎)
Assembridge NAGOYAプロジェクト「L PACK|コーヒーのある風景」ほか
会期:2016/02/26~2016/03/27
旧潮寿司ほか[愛知県]
その後、街中を歩き、アートのミニブックを展示する渡辺英司のボタンギャラリー、L PACKが寿司屋を「コーヒーのある風景」に変容させた終わりなきリノベーション、徳重道朗による旧つむぎ店に多重フレームを出現させたインスタレーション、ヒロスムの映像、山本聖子の「オランダに山をつくる」などを鑑賞する。トリエンナーレ以外でも、こうした筋がよいアートプロジェクトが稼働しているあたりに、名古屋のアートの底力を感じる。
写真:左=上から、ボタンギャラリー、「コーヒーのある風景」、右=上から、多重フレームを出現させたインスタレーション、「オランダに山をつくる」
2016/03/20(日)(五十嵐太郎)