artscapeレビュー

2016年04月15日号のレビュー/プレビュー

モーション/エモーション─活性の都市─

会期:2016/01/17~2016/03/27

札幌芸術の森美術館[北海道]

北海道新幹線開業の日に札幌へ。もちろん新幹線は函館止まりなので、飛行機でひとっ飛び。昼前に新千歳に到着したが、約束の時間まで4時間ほどあるので、バスで真駒内に出て芸術の森に直行、「モーション/エモーション」展を見る。特に見たいわけでもないけれど、北海道に関連する企画展らしいし、年度末のせいかほかの美術館も大した展覧会やってないし。よその地に行くと必ずひとつやふたつ美術館を訪れずにはいられないというビョーキみたいなもんだ。同展は「北海道を中心に活躍する9人のアーティストたちの作品約90点を通じ、一つの生命体のように増殖と明滅をくりかえす都市の姿と、そこに生きる人々の感情に焦点をあてます」とチラシにある。絵画から彫刻、写真、インスタレーションまで、若手からベテラン、物故作家まで多彩だが、北海道という共通点以外なにか通底するものがあるような気がする。それは仕事が細かく、丁寧なこと。特に武田志麻の細密な木版画、野澤桐子のリアリズム肖像画、クスミエリカのデジタルコラージュ、森迫暁夫の童画のようなインスタレーションにそれを感じる。寒いからアトリエにこもってコツコツと仕事をするしかないからだろうか、と考えるのは北海道に対する偏見ですね。いずれにせよ多くの作品が工芸的に見えるのだ。唯一異なるのが廃材を使った楢原武正のインスタレーションだが、一見荒々しい彼の仕事もけっこう気を遣って構成されているように見える。仕事が丁寧なのはもちろん悪いことではないけれど、それだけで充足してしまいがちで、なにかものたりなさを感じてしまうのも事実。30分ほどで切り上げ、雪でぬかるんだ道を急いでバス停へ。

2016/03/26(土)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00033379.json s 10122317

アートとリサーチ

会期:2016/03/15~2016/03/29

札幌市資料館 SIAFラボ プロジェクトルーム[北海道]

今日のお仕事は、北海道をテーマにしたワークショップの講評会。明日アーティストの島袋道浩とトークを行なうのだが、どうせだからということで、島袋くんが講師をしているこのワークショップの講評会にも参加することになった。このワークショップは、参加者がそれぞれテーマを設定して北海道をリサーチし(北海道を旅しながらテーマを固めていくといったほうが正確か)、その過程をウェブ上にアーカイヴしていき、最後に展示と講評会を行なうというもの。参加者は11人(女性が8人)で、みんな40歳以下。島袋くんが選んだだけあって、いわゆるプレゼン慣れしたアーティストっぽい人は少なく、ひとクセもふたクセもありそうな若者が集まった。ユニークなのは一人5万円ずつ与えられ、自由に使っていいこと。大半は道内の移動に使われたようだが、このように財源に余裕があるのは、2年前から始まったSIAF(札幌国際芸術祭)効果らしい。プレゼンでは2、3おもしろいのがあった。佐藤拓実は「夷酋列像」などに描かれるアイヌ人の着物が左前であることに気づき、いろいろなアイヌ像をリサーチ。それとは別に、富士山と羊蹄山(蝦夷富士と呼ばれるが、高さは2分の1)の同じ高さのモデルをロールペーパーでつくった。阿児つばさは音威子府に赴き、かつて凍った川の氷を切って向こう岸に渡して橋として使ったという「氷橋」をリサーチし、現代に蘇らせようとする。どちらも役に立たないどうでもいいような事象に着目した点で、まずは合格。もうひとり、新谷健太は幼いころに生き別れた父に会うため道内を旅し、なんと「再会」というスナックで再会したというウソみたいなストーリー。運賃やスナック再会の領収書、写真などをなぜか二重窓のあいだに挟み込むといういじけた展示もすばらしい。彼は5万円の公費を使って極私的な用件を済ませたわけで、ある意味このワークショップをもっとも有効活用したってわけ。

2016/03/26(土)(村田真)

コタ地区(旧バタビア)

[インドネシア、ジャカルタ]

ジャカルタに到着し、研究室のメンバーと合流し、留学生のハリーさん、ミルザさんの案内で街をまわる。オランダ時代の建築が群として残るコタ地区は、土曜の夜のため、ものすごい人出だった。桜と酒なしで毎週末に花見をやっているような感じと言うべきか。特にあまり照明がない暗がりの中で、ところ狭しと地べたに座って歓談している若者に占拠された、旧市庁舎前の広場の使い倒し方がすごい。おそらく、ここを最初に都市計画したオランダの人が目撃したら、びっくりするだろう。

写真:左上=ジャカルタ旧市庁舎前、左下・右上=ジャカルタ駅

2016/03/26(土)(五十嵐太郎)

海洋博物館(旧東インド会社スパイス倉庫)、インドネシア銀行博物館(旧中央銀行)ほか

[インドネシア、ジャカルタ]

2日目の朝は、再びコタ地区から街をまわる。昨日の人出が嘘のようだ。まず再開発で移動させられる予定の木造の大型船が並ぶ船着場を見学し、続いて18世紀の倉庫を転用した海洋博物館を訪れる。船の模型をただ並べた素っ気ないミュージアムだが、瓦の隙間から光が漏れる、何も置いてないないロフト空間がカッコいい。旧中央銀行のインドネシア銀行博物館は、お金があった時代の贅沢な建築を現在にまで保存している。全周にバルコニーを張りめぐらす、熱帯ならではの工夫だ。そして食材で溢れかえったチャイナタウンを歩く。

写真:左=上から、船着場、海洋博物館外観、海洋博物館ロフト、海洋博物館近くのマーケット、右=上から、銀行博物館外観、銀行博物館内観、チャイナタウン

2016/03/27(日)(五十嵐太郎)

Tanah Teduh

[インドネシア、ジャカルタ]

昼食後にTANA TEDUHを見学する。2012年にオープンした2haに及ぶ、ゲーテッド・コミュニティ的な高級住宅地の開発であり、10名の建築家が20棟のモダン住宅を設計している。緑豊かな自然の環境において、それらと交感する空間の数々に魅了される。暖かい気候ゆえに、壁で完全に密閉せず、リテラルに外部であり内部である領域を効果的に組み込む。気密性が騒がれる日本では許されない、おおらかなディテールだろう。

2016/03/27(日)(五十嵐太郎)

2016年04月15日号の
artscapeレビュー