artscapeレビュー
2016年12月15日号のレビュー/プレビュー
総合開館20周年記念 東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13
会期:2016/11/22~2017/01/29
東京都写真美術館2階展示室[東京都]
平日の東京都写真美術館の展示室は閑散としていた。2016年9月のリニューアル・オープン展の杉本博司「ロスト・ヒューマン」が、それなりに賑わっていたのと比較すると落差が大きい。普段の状況に戻ったともいえるが、それ以上に展示企画の内容に問題があるのではないだろうか。
今回の出品者は、小島康敬(1977年生まれ)、佐藤信太郎(1969年生まれ)、田代一倫(1980年生まれ)、中藤毅彦(1970年生まれ)、野村恵子(生年非公表)、元田敬三(1971年生まれ)。手堅く、継続的に作品を発表し続けている30~40歳代の写真家たちを、「新進作家」という枠でくくるのは、かなり無理がある。それよりもむしろ問われなければならないのは、彼らの写真から、東京の何を、どのように浮かび上がらせるのかという視点が欠落していることだ。たしかに個々の作品は力のこもったいい仕事だった。小島や佐藤の風景へのアプローチ、元田や田代の路上ポートレート、野村のヌードと日常の光景との対比、中藤の街の手触りや匂いへのこだわり、それぞれ愚直ともいえそうな生真面目さで、手ごたえが失われがちな東京の「いま」を切り取ろうとしている。だが、それらを結びつける糸の所在が明確に示されていないため、全体としては何を言いたいのか意味不明の展覧会になってしまった。こういう熱気のない展示が続くと、せっかくのリニューアル以降の東京都写真美術館に対する期待も、しぼんでしまうのではないだろうか。
なお3階展示室では、同美術館の収蔵品を元にした「TOPコレクション 東京・TOKYO」展が同時開催されていた。「街角で」、「路地裏で」、「東京エアポケット」、「見えないものを覗き見る」、「境界線の拡大、サバービア」、「どこでもない風景」、「多層的都市・東京と戯れる」の7つのセクションで、150点の作品を展示しているのだが、こちらもあまりにも総花的すぎてうまく焦点を結ぶことができない。コレクション展でも、より意欲的、積極的なキュレーションを望みたい。
2016/11/30(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス|2016年12月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
前衛誌──未来派・ダダ・構成主義
20世紀初頭のアヴァンギャルドの時代は、彼らの雑誌が世界をつないだ「メディアのネットワークの時代」でもあった。美術史に残る主要誌から知られざる貴重な雑誌まで、出版デザインを広く収集した美麗な図版篇(カラー)と、詳細な書誌的解説を付した論文篇の2冊組。
SD2016
特集1:SDレビュー2016入選作品を審査員の講評とともに紹介。特集2:建築家のためのプロトコル・スタディーズ──思考と施工をつなぐ試行。均質さを指向した近代建築を乗り越えるため、設計から竣工までのさまざまな場面で現代技術を積極的に取り入れた挑戦を紹介する。第4次産業革命の波が訪れた今、各工程をつなぐ約束事としてのプロトコルの解体と再構築により建築は進化している。企画・編集は大野友資、寄稿者に天野裕、竹中司+岡部文、西澤徹夫、浜田晶則、隈太一、豊田啓介。
デザインの解剖
株式会社明治の主力5商品をデザインの視点で解剖したカタログ5冊とプロジェクトの概要の英訳本による、創業百周年記念アーカイブ。
「明治ミルクチョコレート」、「おいしい牛乳」など、株式会社明治の5つの主な商品をデザインの視点で解剖したカタログ5冊と英訳の「解剖プロジェクトの概要」1冊を付す。6冊組。
建築の前夜──前川國男論
ル・コルビュジエのもとで学び、帰国後レーモンド事務所を経て独立した建築家・前川國男(1905-1986)の前半生、敗戦までの軌跡。「日本趣味を基調」という募集規定にあえて逆らった案により一躍モダニズム運動の旗手として脚光を浴びた東京帝室博物館(現・東京国立博物館)コンペ、代々木か明治神宮外苑か駒沢か──IOC総会で開催決定後も主競技場の敷地が二転三転するなか岸田日出刀のもとで練りあげた幻の「第12回オリンピック東京大会」会場計画、当初の前川案から紆余曲折を経て坂倉準三の手に委ねられ、建築部門グランプリを受賞したパリ万博日本館、前川が審査員に加わり丹下健三が一等当選を果たした日米開戦後の大東亜建設記念営造計画、そして戦時下最後のコンペとなった在盤谷日本文化会館ほか日本近代建築史上重要な設計競技やプロジェクトの実相を水面下の動きとともに浮かびあがらせ、戦時下の体制への建築家の関与や抵抗をも検証した決定版資料である。収録図版約200点。
複数性のエコロジー──人間ならざるものの環境哲学
地震、原発問題、無差別殺人、自殺……現在、われわれが感じるこの「生きづらさ」とはなんなのか?「エコロジー」概念を刷新し世界的な注目を集める思想家ティモシー・モートンは、現代人の生きる空間そのものが「うつの空間」と化しているという。都市空間の「荒廃」を問い続け、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示にもかかわるなど精力的な活動を続ける著者が、モートンと直接に対話しながら辿り着いた、自分への配慮と、ヒト・モノを含む他者との結びつきの環境哲学。……「人間が、人間だけで生きていることのできていた時代が終わろうとしている」。
※巻末には日本初公開となるティモシー・モートンのインタビューを収録。
2016/12/14(水)(artscape編集部)