artscapeレビュー
2017年06月01日号のレビュー/プレビュー
メッセージ(原題:Arrival)
日本ではまだ公開されていないSF映画『Arrival』。垂直に起立する宇宙船の細いシルエットがこれまでにない風景をつくり、崇高で見とれた。一方、エイリアンははっきりと姿を見せないことで、失点を防いでいた。女性の言語学者が、宇宙人とのコミュニケーションを試みる物語だが、本作も本当に中国の存在感が大きい。実は時空の円環が鍵で、えっ? そういう話だったの? とも思うが、アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」ももっと大きなレベルでそういう部分があった。
2017/04/04(火)(五十嵐太郎)
パッセンジャー
宇宙船の内部は、5,000人の乗客という規模感も含め、現在のクルーズ船のイメージをかなり投影しているのが興味深い。物語はSFの枠組を借りて、確かに倫理的な問題を突きつけるものだが、同時に限定的な状況のなかで人間の天職と運命といったことも考えさせられる。
2017/04/04(火)(五十嵐太郎)
「不信 ~彼女が嘘をつく理由」
会期:2017/03/07~2017/04/30
東京芸術劇場[東京都]
三谷幸喜「不信 ~彼女が嘘をつく理由」@東京芸術劇場。同じ間取りに暮らす集合住宅の2組の夫妻(段田安則、優香ほか)が、小さな嘘から転げ落ち、引き返せない地点を越えてしまう。シンメトリカルなセット、水平移動しながらさまざまな配置になる椅子群、中心軸の舞台を両側から挟む観客席など、空間デザインも交換可能性を示唆しており、興味深い。
2017/04/06(木)(五十嵐太郎)
新宿区成立70周年記念協働企画展 新宿の高層ビル群ができるまで 塔の森クロニクル
会期:2017/03/05~2017/05/07
新宿歴史博物館[東京都]
文字どおり新宿高層ビル群の歴史的変遷を見せた展覧会。同館はこれまでも類似した企画展を催してきたが、今回は「視覚的・立体的に体感できる西新宿ビル群の年代記」をコンセプトに据えたうえで、中西元男らによる映像作品《西新宿定点撮影》(1969- )をはじめ、関連する地図、書籍、写真などの資料を展示した。
ただ今回の展示の中心は、なんといっても新宿駅構内の模型作品である。これは昭和女子大学環境デザイン学科田村研究室によって制作された縮尺1/100の模型。シナベニヤ板を加工した水平パーツと階段パーツを組み合わせた立体造形で、ちょうど腰のあたりまで吊り上げられて展示されているので、地上と地下を縦横無尽に入り乱れる複雑な構造が手に取るようにわかる。普段新宿駅を利用する人であっても、それがこれほど多層的に構成されていることに思いが及ぶことはなかなかない。私たちにとっての日常を相対化する装置として、この作品は大きな意味をもつ。
しかしその一方で痛感したのは、そのような複雑な構造の中を規則的に循環する私たち自身の儚さである。むろんこの模型には人間の形象が組み込まれていたわけではないし、ある種の記号として明記されていたわけでもない。だが、迷路のように複雑な構造体の中を、少なくとも1日340万人もの人間が利用しているという事実を踏まえると、そこには眼に見えない人間のイメージが立ち現われているようでならない。通勤ないしは通学のために利用している乗降客の大半は、決まりきったルートを日々移動しているはずだから、そのおびただしい人の流れはまるで臓器の中を循環する血流に近いのかもしれない。
人間が人間のためにつくり出したにもかかわらず、それが人間を支配するようになるという倒錯。「フランケンシュタイン」に典型的に描かれているような疎外論は、私たちの幸福を考えるうえで依然として有効なトピックである。その観点から現在の都市生活を根底から再考させるという点で、本展は意義深い。
2017/04/08(土)(福住廉)
日本、家の列島 ─フランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザイン─
会期:2017/04/08~2017/06/25
パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]
フランス人の建築家の目から見た日本の住宅であり、すでにヨーロッパでは数カ所巡回しているもの。日本での展示用に新しくつくられた模型群、施主と建築家へのインタビュー、ジャーナリストが撮影した住人や街の人・風景が一緒に映る写真が充実している。オープニングのシンポジウムでは、前衛的なデザインの住宅でありながら、いまなお室内では靴をぬいで、床にべたっと座ったり、寝転ぶ日本人の伝統的な生活習慣が、実は西欧人にとってかなり驚きらしいことが判明した。確かに取材時に、そうした住民のポーズが多く撮影されている。
2017/04/08(土)(五十嵐太郎)