artscapeレビュー
2017年11月15日号のレビュー/プレビュー
《天神山のアトリエ》《貝沢の家》《萩塚の長屋》
[群馬県]
高崎にて、藤野高志/生物建築舎のアトリエを訪問する。三度目だが、ものすごく植物や木が生長していて驚く。今回は彼の漫画による卒計のインタビューが目的である。やはり、図面や模型が一切なく、簡単な本を制作したという。内容は文明批評を伴う壮大な建築と自然の物語である。ほかに巨大な油絵、インスタレーションを燃やす行為もあったことを知る。なお、この漫画は事務所のHPで閲覧可能だ。続いて、藤野高志による実家のリノベーション、《貝沢の家》を見学した。長い時間をかけただけに、とんでもなくややこしく、複雑な、新築では絶対に生まれない空間の質を醸成していた。もとはごく普通の家なのだが、新しさと古さがシームレスにつながり、工事中/解体中にも見える建築に変身した。そして《萩塚の長屋》を再訪した。地方都市ゆえに、駐車場を2台分ずつ確保する集合住宅であり、中庭は視線が交わらないよう計算しながら、竹を植える。この一角に入る前衛的なガーデニング屋、ACID NATURE 乙庭が植栽を担当したという。藤野のアトリエも、こことのコラボレーションで植物を選定していたことが判明した。
写真:上=《天神山のアトリエ》 中=《貝沢の家》 下=《萩塚の長屋》
2017/10/27(金)(五十嵐太郎)
猿とモルターレ アーカイブ・プロジェクトin大阪
会期:2017/10/28~2017/10/29
FLAG STUDIO[大阪府]
『猿とモルターレ』(演出・振付:砂連尾理)は、「身体を通じて震災の記憶に触れ、継承するプロジェクト」として、公演場所ごとに市民とのワークショップを通じて制作されるパフォーマンス作品。2013年の北九州、2015年の仙台公演を経て、2017年3月に大阪で上演された(大阪公演の詳細は、以下のレビューをご覧いただきたい)。
筆者は、今回の「アーカイブ・プロジェクトin大阪」の第1日目に参加。3月の大阪公演の記録映像を皆で鑑賞したのち、作品の感想や「継承」について参加者同士の対話を重視しながら議論を深めていく「てつがくカフェ」が開催された。一般的に、公演からそれほど間を空けずに記録上映会が行なわれることは少ない。もちろん「生の舞台」の体験は何ものにも代えがたいが、舞台の記録映像はあくまで補完的な役割であって、記録以上の積極的な意味が付与されることは少ないと言えるだろう。今回の企画の優れた点は、単なる記録映像の上映で終わらず、「てつがくカフェ」とセットで開催されたことだ。舞台を見た直後であれば、「このシーンに感動した」「あのシーンの意味は何か」というように感想や意見が作品内部に収束しがちだ。しかし、映像の場合、良い意味で距離を置いて客観的に見ることができ、さらに対話の場を通して、作品の外縁にある問題へと意識を向け、観客が主体的に考えるきっかけが開かれる。
また、記録映像の撮影と編集を担当した、映像作家の小森はるかの功績も大きい。小森の映像編集の優れた点は、舞台を見ている時の感覚に近いことだ。アップやカット割りを多用した場合、視覚的効果は増すが、「舞台上で実際に流れていた時間の持続性」が絶ち切られて削がれてしまい、「映像を見ている」感覚が増幅する。しかし小森は、基本的には引き気味の固定カメラで撮影した映像を、時間の持続性を寸断せずに要所でカット割りを挟むため、時間の流れに身を委ねながら見ることができる。かつ、袖や舞台奥から撮影した映像を挿入するなど、客席からは不可能なアングルも時折差し挟まれ、空間的な把握が補強される。舞台芸術と記録映像、アーカイブのあり方はさまざまに議論されているが、今回のように映像作家と協同する方法は、「記録映像」のあり方や質について考える際に有効なのではないだろうか。
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砂連尾理『猿とモルターレ』|高嶋慈:artscape レビュー
2017/10/28(土)(高嶋慈)
飛鳥乃湯泉、道後温泉本館
[愛媛県]
松山にて、アーバン・デザイン・センターのスタッフの案内により、道後温泉のエリアをまわる。まちづくりの現在をうかがいつつ、オープンしたばかりの飛鳥乃湯泉を見学した。聖徳太子の伝説に基づき、外観はまさかの日本古代の様式! である。内部に伝統工芸の技を散りばめる。この向かいの商店群では、浅子佳英がリノベーション・デザインを計画中らしい。今度修復保全の工事に入るという道後温泉の本館は、かなり細かく内部のあちこちを見学する。これも新築一発では不可能な空間、というか現行の法規では無理だろう。が、それこそが最大の魅力である。ギヤマンのガラスをはめた塔屋から見下ろすと、つぎはぎ建築の隙間に銭湯施設の機械設備が見え、和とメカのハイブリッド感にしびれる。
写真:上・中=飛鳥乃湯泉 下=道後温泉本館
2017/10/28(土)(五十嵐太郎)
《はーばりー》《今治市公会堂》《愛媛信用金庫今治支店》
[愛媛県]
今治にて、昨年はオープン前で外観のみ見学した原広司のみなと交流センター《はーばりー》を訪問する。実際に屋上のデッキまで歩くと、本当に船のイメージであることがわかる。宇宙船みたいな図書館とか、ロケット発射場みたいな高層ビルとか、ある種の浪漫主義的なテイストが原建築に感じられる。昨年は内部に入れなかった丹下健三の《今治市公会堂》も、ちょうど子どものダンス・コンテストのリハーサル中で見ることができた。天井は構造があらわになったオリジナルの形状を維持しつつ、座席は現代の仕様に変えられていた。また丹下による《愛媛信用金庫今治支店》は、遠景から見ると、頂部の持ち上げた屋根の造形がカッコいい。
写真:上=《はーばりー》 中=《今治市公会堂》 下=《愛媛信用金庫今治支店》
2017/10/28(土)(五十嵐太郎)
「移動する建築」都市設計コンペ&「みんなのヒミツ基地」まちづくりアイデア募集 二次審査会&表彰式
坂の上の雲ミュージアム[愛媛県]
松山の駅前の花園町通りやロープウェー通りなどを見る。ストリート沿いに良好な景観や歩行者の空間をつくりながら、照明やファニチャーによって、デザイン性も確保している。さて、今回の松山訪問の目的は、アイデア・コンペではなく、花園町通りや温泉エリアで実際に制作する「移動する建築」都市設計コンペの6組の二次審査を行なうためだった。会場は坂の上の雲ミュージアムであり、モバイル茶室、帯、円筒、屋台、マルシェ、雲など、多様な案がそろった。審査の結果、花園町通りではキム・テボンによるまちを旅する4つの屋台が、飛鳥乃温泉エリアではバンバタカユキらによる浮かぶ雲のプロジェクトが最優秀に選ばれた。
写真:上・中=花園町通り 下=ロープウェー通り
2017/10/29(日)(五十嵐太郎)