artscapeレビュー

2017年11月15日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:岸井戯曲を上演する in OSAKA #0

会期:2017/12/27

阿倍野長屋[大阪府]

劇作家、岸井大輔の戯曲を上演する企画。岸井の戯曲は、台詞やト書のある台本のようなものではなく、インストラクションや命題のようなものの提示や、詩や散文的な文章である点が大きな特徴だ。「岸井戯曲を上演する」という企画は、横浜のblanClassで2016年9月から2017年7月まで、10カ月にわたって行なわれた。毎月、何組かの演劇、美術、ダンス、音楽など異ジャンルの人が同じ戯曲をそれぞれ上演し、終演後に話し合うというもので、「上演する」ことを通して対話の場が生まれることを広く「劇」と捉えた企画であった。
今回の「岸井戯曲を上演する in OSAKA #0」では、関西を拠点とする6人の演出家やダンサーたちが、それぞれ別の戯曲を選び、上演する。伊藤拓也(演出家)、劇団「うんなま(演出:繁澤邦明)」、住吉山実里(ダンサー)、古川友紀(ダンサー)、向坂達矢(演出家、「京都ロマンポップ」主宰)、和田ながら(演出家、「したため」主宰)という顔ぶれも興味深い。会場は、大阪の下町にある古民家、阿倍野長屋。ブラックボックスの劇場でなく、生活空間と地続きの上演空間、複数のジャンルの表現者による上演を通して、「演劇」の条件や拡張、身体と言語の関係について考える機会となってほしい。
公式サイト:https://takutakuf.wixsite.com/kishii-jouen-zero

2017/10/30(月)(高嶋慈)

増田セバスチャン作品展 YOUR COLORS

会期:2017/10/20~2017/11/12

A/Dギャラリー[東京都]

「THEドラえもん展」にも出していた増田セバスチャンの個展。円形や矩形や立体の表面に、プラスチックのフィギュアやチープなアクセサリー、ビーズなどちっちゃくてキラキラしてポップでカワイイ物体を散りばめた作品が約20点。それぞれピンク系、ブルー系、グリーン系と大ざっぱに色分けされ、ただひたすらカワイイという気分をくすぐることに徹している。ざっと見たところ1点に数百個のグッズがびっしり貼りついていて、この会場だけで1万個は下らないだろう。いったいどれだけ材料をストックしているんだ? それをどこから仕入れて、どこに保管しているんだ? 倉庫いっぱいキラキラ物資があふれてるんじゃないか? そんなことばかり気になるし、そっちのほうも見てみたくなる。

2017/10/31(火)(村田真)

THE ドラえもん展 TOKYO 2017

会期:2017/11/01~2018/01/08

森アーツセンターギャラリー[東京都]

1990年に東京国立近代美術館で「手塚治虫展」が開かれて以来、美術館でのマンガやアニメの展覧会は珍しくなくなった。でも本来マンガは雑誌、アニメはテレビか映画で見るものであって、美術館で鑑賞するものではない。同じく実物を持ってこれない建築も、使ってなんぼのデザインも、手に持ってながめる浮世絵も美術館で見る(見せる)ものではないと思っている。でもこの「ドラえもん展」は、原画や映像を紹介するのではなく、いま活躍中のアーティストに「あなたのドラえもんをつくってください」と依頼して制作された作品を展示するもの。だからいわゆるマンガ展ではなく、現代美術展というべきだろう。
じつは同じ趣旨の「THEドラえもん展」は15年前にも開かれていて、それも見た覚えがある。たしか大阪のサントリーミュージアム天保山(閉館)だったような気がするので調べてみたら、サントリーミュージアムで見たのは故東谷隆司が手がけた「ガンダム展」(2005)で、「ドラえもん展」のほうは巡回先の横浜そごう美術館で見たのだった。「ドラえもん展」もサントリーミュージアムから立ち上がってるし、どちらもアーティストが参加した現代美術展なので勘違いしていた。ていうか、ぼくは世代が違うので、ガンダムだろうがドラえもんだろうがどっちでもよく、ただアーティストがサブカルチャーにどれほど影響を受けているのかを知りたくて見に行っただけなのだ。ちなみに前回展で強烈に覚えているのは、レンブラントの自画像とドラえもんを強引につなげた福田美蘭の作品。今回はこれと対になるように水墨画とドラえもんを結びつけた新作を描き、うれしいことに旧作と並べている。美術史への愛と冒涜をドラえもんを介して表現した2点。ほかに奈良美智、蜷川実花、村上隆、森村泰昌が前回に続いて2度目の出品となる。
初出品では、自主規制でしずかちゃんを描いた(いや描かなかった)会田誠、ドラえもんの彫刻をつくって表面にプロジェクションマッピングした西尾康之(このふたりは「ガンダム展」にも強烈な作品を出していた)、もっと下の世代では、走る鉄道模型で一瞬ドラえもんらしき影を映し出すクワクボリョウタ、巨大化したしずかちゃんを超リアルに描いた坂本友由、ひみつ道具をいかにもそれっぽく立体的に再現した伊藤航と、それを水墨画でリアルに描写した山口英紀のコラボレーション、黒板にチョークで「のび太の新魔界大冒険」の1シーンを描いたれなれななど、予想以上に力作がそろっている。前回はグラフィックや映像が多くてガキンチョが喜んでいたが、今回は絵画を中心にアート系が大半を占め、しかも技巧的に確かな作品が目立つ。これは同展を監修した山下裕二氏の力によるところが大きいだろう。ドラえもん世代でなくても十分に楽しめる展覧会になっている。

2017/10/31(火)(村田真)

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カタログ&ブックス│2017年11月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

写真の理論


編訳:甲斐義明
発行:月曜社
発行日:2017年10月20日
定価:2,500円(税別)
サイズ:四六判、312ページ

写真史と写真の論理を読み解くための重要論考(ジョン・シャーカフスキー、アラン・セクーラ、ロザリンド・クラウス、ジェフ・ウォール、ジェフリー・バッチェンの5篇)の翻訳。編訳者による詳細な解説や写真理論のブックガイドも収録。カバーの写真は森山大道による《ニエプスの窓》。


現代建築家コンセプト・シリーズ
403architecture[dajiba] 建築で思考し、都市でつくる


著者:403architecture[dajiba]
発行:LIXIL出版
発行日:2017年9月15日
定価:1,800円(税別)
サイズ:A5判、160ページ

21世紀に入って経済成長の神話が崩れ、都市回帰と地域再生の動きが同時に進み、建築が大きな転換点を迎えるなか、403architecture [dajiba]は2011年に静岡県浜松市を拠点に活動をスタートし、約6年の間に50のプロジェクトを完成させてきた。彼らは、敷地やプログラム、クライアントが異なるそれぞれのプロジェクトのなかに「材料転用」「既存応用」「慣習ずれ」「新旧混成」「等価空間」「単位反復」という性格を見出し、新たな建築的価値を浮かび上がらせる。これら6つの「タグ」は、これからの建築が求める複層的な価値観を示すとともに、建築という創造の歴史との豊かな接続を物語っている。
本書では、6つのタグによる作品分析、6つのタグの歴史的解釈を行なうとともに、イギリスの建築家集団「Assemble」とのメール対談では、建築活動の世紀的な転回を語りあう。建築はこれからどのような意思とともにあるべきか。ここにひとつのモデルが示される。

ありふれたものの変容──芸術の哲学


著者:アーサー・C・ダントー
翻訳:松尾大
装丁:服部一成
発行:慶應義塾大学出版会
発行日:2017年10月31日
定価:4,600円(税別)
サイズ:四六判、372ページ

1960年代初め、アンディ・ウォーホルの《ブリロ・ボックス》が「芸術」として提示されたとき、このような、平凡なものと区別のつかないアート作品の出現が、新しい芸術の理論を要請した。本書は、その理論的構築のために捧げられた、20世紀美学最大の成果である。
ダントーは、芸術の理論に属するものを、伝統的にそれと混同されてきたものから区別しようと試みる。そして、芸術の表象を独自に解釈し、メタファー、表現、様式を体系的に説明する。
ウォーホル、リキテンスタイン、ブリューゲル、ボルヘス、カポーティ……豊富な例を引きながら、なぜ「ありふれたもの」が「芸術」に変容したのか、芸術をどのように定義できるのか、哲学的に明らかにしていく。

アイデアスケッチ──アイデアを〈醸成〉するためのワークショップ実践ガイド


著者:James Gibson、小林茂、鈴木宣也、赤羽亨
発行:ビー・エヌ・エヌ新社
デザイン:田中佐季
発行日:2017年10月20日
定価:2,300円(税別)
サイズ:B5判、144ページ

プロセスからデザインすることで、アイデアとチームを同時に醸成できる。
地方都市にありながらも全国から異才が集結する学校IAMAS(イアマス)。そこで培われた視覚的ブレインストーミング手法「アイデアスケッチ」のノウハウを、誰もが実践できるようわかりやすく解説。新規事業開発担当者のみならず、ビジネスの領域でファシリテートしたいデザイナーやエンジニアも必携の一冊。


藤森照信展──自然を生かした建築と路上観察


発行:水戸芸術館現代美術センター
発行日:2017年10月5日
価格:2,000円(税別)
サイズ:B4判変、160ページ

藤森建築の魅力が満載! 写真を多数掲載し、藤森照信自身が執筆した作品解説は読み応え充分。建築作品や茶室、家具、素材見本まで内容盛りだくさんの一冊です。


天野尚 写真集──アート オブ ネイチャーアクアリウム


発行:アクアデザインアマノ
発行日:2017年11月8日
価格:2,500円(税別)
サイズ:278×250mm、160ページ

水景クリエイターとして、写真家として、61年の人生を駆け抜けた天野尚。没後2年となる今年、新しい作品集が出版となります。この作品集は天野がレイアウトを制作し、大判フィルムで水景を撮影してきたネイチャーアクアリウムの作品を軸に、おもに超大判フィルムで撮影された生態風景写真の代表作を交えながら、表現者としての天野 尚の世界をまとめた一冊です。
作品集としては、ネイチャーアクアリウムの代表作はもちろん、前々作『ガラスの中の大自然 1985-2009』、前作『創造の原点』に未収録の作品も収録し、これらを補完するものとなります。また、これまでの作品集に掲載されていた水景写真は、天野がこだわってきた大判フィルムの持ち味を最大限に引き出すためそのほとんどをスキャニングからやり直し、最新の技術で印刷しています。アナログの臨場感にあふれた水景を、ぜひご覧ください。


2017/11/14(火)(artscape編集部)

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