artscapeレビュー
2017年11月15日号のレビュー/プレビュー
ロジャー・バレン「BALLENESQUE」
会期:2017/10/20~2017/12/20
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
ロジャー・バレンは1950年、アメリカ・ニューヨークの生まれだが、1980年代から南アフリカ・ヨハネスブルグを拠点に写真家としての活動を続けている。今回のエモン・フォトギャラリーでの個展は日本では初めての本格的な展示というべきもので、アメリカ時代の初期作品から近作まで、代表作33点が並んでいた。バレンといえば、「Platteland」(1994)、「Outland」(2001)など、南アフリカ各地で撮影された奇妙に歪んだ雰囲気の人物たち、どこか不穏な空気感を湛えた光景を6×6判の画面に封じ込めたモノクローム作品がよく知られている。だが、今回展示された「Shadow Chamber」(2005)以降のシリーズでは、ドキュメンタリーというよりは、被写体となる人物やオブジェを演出的に再構築したパフォーマンスの記録というべき側面が強まってきている。新作の「The Theatre of Apparitions」(2016)は、廃墟となった刑務所の壁の落書きを、スプレー絵具を吹きつけたガラスで透過して撮影したシリーズだが、ほとんどドローイング作品といってもよい。また、今回の個展の会場となったギャラリーの床には、チョークでドローイングが描かれ、ビザールな人形2体によるインスタレーションも試みられていた。バレンの関心は、写真という枠組みを超えて大きく広がりつつあるようだ。とはいえ、「Ballenesque」すなわち、「バレン様式」という造語をそのままタイトルにしているのを見てもわかるように、初期から現在に至るまで、彼のアーティストとしてのポジションに揺らぎはない。現実世界を写真という装置を使って増殖、変換していくときに生じるズレや歪みに対する鋭敏な反応は一貫しており、近年はその振幅がより大きく振れつつあるということではないだろうか。その「魔術的リアリズム」は、ラテン・アメリカの写真家たちとも共通しているようにも思える。
2017/10/20(金)(飯沢耕太郎)
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2017 スン・シャオシン『Here Is the Message You Asked For... Don't Tell Anyone Else ;-)』
会期:2017/10/20~2017/10/21
京都芸術劇場 春秋座[京都府]
中国の新進劇作家、演出家、批評家のスン・シャオシンによる舞台作品。
ピンク色の透ける布でできた天蓋が舞台空間を覆っている。外界から優しく保護されたような空間の中には、2段ベッドが横一列に3台並び、左と右の2段ベッドも薄い布で覆われている。繭のような個室空間は、少女たちがモニター越しに日本のアニメ、ゲーム、アイドルのライブ映像に没頭する自閉空間だ。彼女たちはベッドに寝転びながらPC画面を眺め、スナック菓子を食べ、メイクし、コスプレ衣装に着替え、自撮り棒に付けたスマホでお互いを撮り合い、ネットに生配信する。彼女たちはもっぱら、LINEを介してコミュニケーションを行なっており、そのやり取りは、同じLINEのグループに参加すれば観客もリアルタイムで共有できる(だがそこで得られるのは擬似的な共有感覚ではなく、全てが液晶画面越しに行なわれるという間接性や疎外感だ)。それぞれの「個室」を仕切る薄い膜は同時に「スクリーン」となり、彼女たちが視聴する中国語字幕のアニメや中国版のニコニコ動画で配信されるアイドルの映像などが次々と映し出されていく。この「繭のように包む膜=スクリーン」は、彼女たちが没頭する二次元の表象世界であると同時に、外界から遮断し守ってくれる保護膜でもある。孵化箱に閉じ込められたような少女たちの姿態を、観客は延々と「鑑賞」させられる羽目になる。ウィンドウ越しに消費される美少女キャラやアイドルたち。舞台上で観客の窃視的な視線に消費される少女たち……。アンビエントな音楽と光に包まれ、コスプレ少女たちは夢遊病者のように徘徊する。
後半は一転して、観客との「触れ合い」タイムが始まる。彼女たちは個室空間から出て客席の中へ歩み入り、観客にカタコトの日本語で話しかけ、握手したり、一緒にスマホで記念撮影を始める。それぞれの個室の膜=スクリーンには、名前や出身地、性格や好きなものについての「自己紹介」が映し出される。客席にはぬいぐるみが投げ込まれ、シャボン玉が飛ばされ、多幸感が振りまかれる。だが握手や記念撮影といった「生身の触れ合い」は、舞台というフィクショナルな機制のなかで「演出」されたものでしかなく、「真のコミュニケーションの回復」などはない。カタルシスの浄化も知的な批評性も手放したまま、確信犯的に微温的な空気感に浸り続けた上演の時間は、明確な「終わり」の気配を曖昧にしたまま、ゆるゆると霧散していった。これは「日本」の歪んだ鏡像であり、他者を通して自らのグロテスクなコピーを見せつけられるという居心地の悪さが残る。それは、表層的な「日本(のサブカル)大好き」(第二次大戦期の日本の戦艦を美少女キャラに擬人化した「艦これ」さえもコスプレされ、萌え対象となる)という無邪気な多幸感のなかに隠された本作の毒である。
公式サイト:https://kyoto-ex.jp
2017/10/20(金)(高嶋慈)
長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー
会期:2017/10/06~2017/11/19
師匠の応挙と比較したり、無量寺のふすま絵による空間を再現する、工夫を凝らした内容だった。やはり、建築を意識して描かれた絵画は、インスタレーションによって、美術館でも空間の雰囲気を体験できるとありがたい。猫目の虎や犬など、かわいらしいキャラや漫画タッチの絵、大胆な余白や構図、デザイン的な構成、書道の延長のようなドリッピングやステイニング的な手法など、現代アートの視点から見てもなかなか面白い。
2017/10/20(金)(五十嵐太郎)
ランス美術館展
会期:0017/10/07~2017/12/03
名古屋市美術館[愛知県]
1階は17世紀以降のフランスの美術史をたどる内容で、目玉はダヴィッドの「マラーの死」である。一方で2階は戦後、フランスに帰化した藤田嗣治のコレクションを紹介する。特に彼が壁画やステンドグラスを手がけ、建設したランスのフジタ礼拝堂に関する下絵などが充実していた。
2017/10/20(金)(五十嵐太郎)
あいちトリエンナーレ実行委員会有識者部会および運営会議
会期:2017/10/20
愛知芸術文化センター[愛知県]
あいちトリエンナーレの会議に出席する。芸術監督をつとめる津田大介が掲げるテーマ「情の時代 Taming Y/Our Passion」が発表された。タイトルは「じょう」とも「なさけ」とも読めて、強めの表現の英語タイトルは直訳というよりも、サブタイトルとして読める多義性をもったものである。また名古屋的な金と紫のカラーによるロゴも強烈だった。なお、プレゼンテーションでは、代表的な国際展のヴェネツィア・ビエンナーレをA=博覧会型、ドクメンタをB=テーマ型、ミュンスターをC=サイトスペシフィック型と分類しつつ、これまでのあいちトリエンナーレの2010年をA+C、2013年をB+C、2016年をA+Bと位置づけ、2019年はB+Cに近いタイプになることが説明された。
2017/10/20(金)(五十嵐太郎)