artscapeレビュー

さわひらき展 Lineament

2012年05月01日号

会期:2012/04/07~2012/06/17

SHISEIDO GALLERY[東京都]

さわひらきといえば、日常的な背景に寓話的なイメージを重ねることで幻想的な世界をつくり出す映像作家として知られているが、今回発表した映像インスタレーション《Lineament》は、その重複を後景に退けるほど幻想性の密度が高められていた。回転するレコードから延びる細い糸が部屋中を侵食し、やがて男の頭部や壁面を貫いていく。現実と虚構がゆるやかに溶け合う幻想性が表わされていることは疑いないとしても、すべてを貫通する糸は、おのずと放射線を彷彿させるから、むしろ終末論的な見方が強くならざるをえないことも事実だ。首を折り曲げて倒立する男は軽やかな浮遊感というより「奈落の底」に引き寄せるような重力を、窓の向こうの海辺は解放感というより室内の閉塞感を、それぞれ逆照していたようにすら見える。それは、幻想を幻想として楽しむことができなくなってしまった今日のアートをめぐる状況も暗示していたようだ。

2012/04/20(金)(福住廉)

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