2017年12月15日号
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artscapeレビュー

湯川洋康・中安恵一「豊饒史のための考察 2016」

2016年08月15日号

会期:2016/07/06~2016/07/17

Gallery PARC[京都府]

石、植物の種、貝殻、鳥の羽根、鈴、五円硬貨、陶片、アクセサリーの一部。それらがブリコラージュ的に組み合わされ、繊細で魅力的なオブジェを形づくっている。用途は不明だが、祭壇に捧げられた供物、呪具、装身具を思わせる、呪術性を帯びたそれら。何か聖なるものを「降ろす」依り代のように環状に配置され、天秤が示唆するように平衡を保ち、見えない秩序によって支配された祭祀的空間の磁場が立ち上がっている。一つひとつは謎めいた形だが、どこか記憶の古層を刺激するそれらは、《豊饒史のための考察》と名付けられている。
湯川洋康は服飾業界で活動し、中安恵一は歴史家であるという、異色ユニット。物質的な豊かさにおいて飽和した現在、「物質/精神の均衡についてより意識的になる必要」から、「我々の暮らしにおける『豊かさ』を再構築するための概念」と説明される「豊饒史」の定義はやや曖昧だが、「豊饒」と「史(歴史、物語ること)に分けて本展を考えてみたい。
民間信仰において、無病息災や豊作祈願といった祈念が託されたモノや、死者の魂や神を降ろし、交信するための依り代。廃れゆく民間信仰や風習を民俗史的なリサーチによって掘り起こし、審美的なオブジェとして再構成する彼らは、あえて「彫刻」という美術の制度的な文脈における言葉を用いている。それは、目に見えない祈念や精神性との仲立ちをとりもつ物質をメディウム(霊媒)と見なし、近代的な美術の制度から捨象されてきた文化的慣習や習俗における形象を、史的資料ではなく美的な側面から光を当て、集合的な想念の力や豊かな水脈を再び呼びこもうとしていると考えられる。
そして、彼らの関心の対象が民間信仰や習俗であるように、「史」は、書かれた歴史にとどまらず、口承の語りや個人的な記録物も含み、断片の再編成によって新たな形を生み出す行為である。更地で拾った瓦や陶片を金継ぎした作品や、帯状に裁断した本のページを織物のように編み込んだ作品が、そのことをよく示している。
「歴史を語ること」はまた、断片的な要素の組み換えと再構築を通して、新たな秩序の創出への欲望でもある。彼らが参照しているように、本居宜長が10代の頃に創作した、架空の城主「端原氏」の家系図とその城下絵図の緻密な描写は、世界の秩序の可視化への欲望をまさに体現している。民俗史のエッセンスを抽出して美的に再構築(彫刻化)しつつ、ダイナミックな再編成と安定した秩序の往還のうちに人々の営為を眼差す彼らの試みは、「豊饒史」という新たな思考のフレームに向けられている。


《豊饒史のための考察2016》
撮影:麥生田兵吾

2016/07/15(金)(高嶋慈)

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