artscapeレビュー

森まき「IN MY NATURE」

2012年04月15日号

会期:2012/02/27~2012/03/03

森岡書店[東京都]

森まきは、昨年横浜のBankARTで開催した「ポートフォリオを作る」というワークショップの受講生のひとり。その頃から写真の撮影、プリントのセンスのよさと、手づくりの写真集にまとめていくグラフィック的な処理の能力は際立っていた。彼女のように、意欲的に個展を開催していく受講生が出てくるのはとても嬉しい(3月30日~4月16日にはUPフィールドギャラリーで個展「凛として迷子」を開催)。
森岡書店での個展に出品された作品は、街で折りに触れて目についた光景を切りとったものだが、そこには「これを撮りたい」「これをプリントして残すべきだ」という意志がきちんと表われていて、一枚一枚の写真が気持ちよく目に飛び込んでくる。会期の最終日に森とギャラリー・トークをすることになって、そのために送られてきた自伝的な文章を読み、彼女の生い立ちが写真を撮ったり発表したりするときの「確信」につながっているのではないかと思った。森は幼少期に両親と離れて広島の祖父母と一緒に暮らしていた。祖父は画家であり、その制作過程を目にしているうちに「何も無いところに形ある世界を創れることを知った」のだという。6歳で広島を出て両親の元に戻ると、今度はピアノを習い始める。ピアノの腕前は相当のもので、周囲は誰もが音大に進むと思っていたのだという。
こういう幼少期の原体験は、写真に限らず制作行為を続けるにあたってとても大事になる。ものをどんなふうにつくり上げていくのかという基本的なプロセスを、身体的に理解しているということだからだ。それほどキャリアを積んでいないにもかかわらず、森の写真が「MY NATURE」の表現としてきちんと成立しているのはそのためだろう。ただ、これから先が難しい。センスのよさだけではすぐに壁にぶつかってしまう。次はより深い覚悟と思考力(哲学)が問われてくるはずだ。

2012/03/03(土)(飯沢耕太郎)

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