artscapeレビュー

辰野登恵子/柴田敏雄「与えられた形象」

2012年09月15日号

会期:2012/08/08~2012/10/22

国立新美術館企画展示室2E[東京都]

取り合わせの妙というべき展覧会だ。辰野登恵子は油彩による抽象画、柴田敏雄は緻密かつスケール感のある風景写真で、それぞれすでに高い評価を受けているアーティストだが、この二人の作品を一緒に展示するということは、普通は思いつかないだろう。ところが、あまり知られていなかったことだが、辰野と柴田は東京藝術大学絵画科油画専攻の同級生(1968年入学)だったのだ。在学中には、同じく同級生の鎌田伸一を加えてコスモス・ファクトリーというグループを結成し、シルクスクリーン作品を中心に発表していた。卒業後はまったく違う道を歩むのだが、辰野と柴田のアーティストとしての活動は同じ母胎から出発したと言えるだろう。
実際に彼らの作品を見ると、意外なほどに共通性があることに気がつく。画面を大づかみな色面のパターンとして把握し、構築していくやり方は、メディウムの違いを超えてかなり似通っている。特に2006年以降、柴田がそれまでのモノクロームからカラーにフィルムを変えてからの作品は、基本的な世界の見方に同一性があるのではないかと思ってしまうほどだ。今回の展示を見てあらためて強く感じたのは、辰野が展覧会のカタログにおさめた対談(「偶然と必然、選択と創作~コスモス・ファクトリーから国立新美術館まで~」)で指摘しているように、柴田が「絵描きの目でカメラを扱っている」ということだった。柴田がもともと優れたデッサン力を持つ「絵描き」だったことは、難関の東京藝術大学絵画科に現役で入学したということからもわかる。たしかに彼の写真を見ていると、目の前の事物を二次元の平面に置き換えていくプロセスが、「絵描きの目」で、力強く、絶対的な確信を持って成し遂げられていることがわかる。辰野が言うように、柴田の写真作品を「絵がやり損なったというか、立ち往生しているポイントに光をあて、写真で絵になっている」という側面から見直す必要があるのではないだろうか。

2012/08/12(日)(飯沢耕太郎)

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