artscapeレビュー

鷹野隆大「立ち上がれキクオ」

2012年09月15日号

会期:2012/08/24~2012/09/28

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

ツァイト・フォト・サロンで発表された鷹野隆大の新作も、いかにも彼らしいアプローチの作品だった。撮影は2002~03年で、「キクオ」と称する中年の男性を撮影したシークエンス(連続場面)の2作品(115×115�Bが5点、48×48�Bが4点)が並んでいる。実は「キクオ」は、鷹野が1990年代末にミニコミ紙で「中年以上の男性ヌードモデル募集」という広告を出したときに、すぐに応募してきたのだそうだ(応募者は結局「キクオ」ひとりだけだった)。鷹野の「ヨコたわるラフ」シリーズ(2000)のなかにも、彼をモデルにした写真が入っている。
「キクオ」をすっかり気に入ってしまった鷹野は、その後も折りに触れて撮影を続けた。今回の出品作もそのなかのもので、太った「キクオ」が床や椅子から立ち上がろうとしている様子に、連続的にシャッターを切っている。特に心がけていたのは、モデルがフレームからはみ出してもカメラをほぼ動かさず、アングルを固定していたことだという。そのことで、顔や身体の一部が断ち切られているのだが、それが逆に面白い効果をあげている。全体に彼の体の「肉の塊」のような量感=物質性が強調されているわけだが、そのことに蔑視的な雰囲気があまり感じられないのが、鷹野の写真術の巧さと言える。むしろ、「キクオ」本人の微笑ましいような可愛らしさがほんのりと漂っていて、見ていて肯定的な気分になる。人間に常につきまとう、奇妙としか言いようのない存在のあり方を、思いがけない角度から照らし出すのが鷹野の作品の特徴だが、それが今回もよく発揮されているということだろう。

2012/08/24(金)(飯沢耕太郎)

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