artscapeレビュー

杉本博司「歴史の歴史」

2009年05月15日号

会期:2009/04/14~2009/06/07

国立国際美術館[大阪府]

遅ればせながら、金沢21世紀美術館から大阪の国立国際美術館に巡回して来た杉本博司の「歴史の歴史」展を観ることができた。既に新潮社から刊行された図録を兼ねた作品集に目を通していたので、出品内容はわかっているつもりだった。だが、当然といえば当然だが、書物の上の図像と実物の展示の印象はかなり違う。印刷されたイメージでは、作品そのものの大きさや物質感が把握できないので、展示を観て「なるほど」と納得させられることが多かった。
展示は大きくB2FとB3Fの会場に分かれている。B2Fは「化石」から始まって杉本自身の「海景」シリーズ、鎌倉~室町時代の古面などが仰々しい照明によって浮かび上がり、正直、その重苦しさに圧迫感を感じた。だがB3Fの近代以降の「歴史の歴史」の展示になると、杉本の思考の運動が軽やかな諧謔の精神とともに伝わってきて、思わずチェシャ猫のようなにやにや笑いが広がってくるのを抑さえることができなかった。特に最後のパートのマルセル・デュシャンの「大ガラス」+「放電場」のフォトグラムのシリーズは、観客を煙に巻く杉本の「マッド・サイエンティスト」ぶりが堂に入っていて、大いに楽しめる。杉本の仕事が「笑える」ものであることを、僕自身はじめて認識することができたし、本人もそれをわかってもらいたかったのではないだろうか。
それにしても、これだけの展示を自分の作品とコレクションだけでやってのけるというのは凄過ぎる。コレクターとしての無償の情熱こそが、彼の作品制作の最大の動機ということなのだろう。

2009/04/19(日)(飯沢耕太郎)

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