artscapeレビュー
本城直季「ここからはじまるまち Scripted Las Vegas」
2009年05月15日号
会期:2009/03/04~2009/04/12
epSITE(エプサイト) ギャラリー1[東京都]
2007年に本城直季が第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した時には、4×5判カメラの「アオリ」を使ったピントの操作だけでこの先持つのだろうかとやや心配だった。典型的な「一発芸」かとも思っていたのだが、その心配は杞憂だったようだ。広告写真の分野でのその後の活躍は予想以上だし、今回の「ここからはじまるまち Scripted Las Vegas」でも、空撮に果敢に挑戦して新境地を開いている。
それにしてもラスベガスとはうまい被写体を選んだものだ。本城自身も展覧会の解説で書いているように、「都市はどのように構成されているのか?」という疑問に答えるのに、ラスベガスは最適の街である。この砂漠の中の人工都市では「中心地、商業地、住宅地、郊外、道路、工場、エネルギー施設など都市を形づくる構成要素がとてもシンプルに露出している」からだ。1936年に巨大なフーバーダムができたことで、ラスベガスはある種の実験都市として発展していく。ホテルと遊園地が合体した建物に代表される、その虚構性、人工性、遊戯性を浮かび上がらせるのに、本城お得意の風景をミニチュア化する「アオリ」の手法はまさにぴったりなのだ。
展示されている写真の中に「The MIRAGE」というホテルが写っているのを発見したときには、思わずニヤリとしてしまった。本城も「これだ」と思ったのではないだろうか。「MIRAGE=蜃気楼」。ラスベガスの本質が、この名前によって見事に表象されている。
2009/04/01(水)(飯沢耕太郎)