artscapeレビュー

野町和嘉「聖地巡礼」

2009年05月15日号

会期:2009/03/28~2009/05/17

東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]

かつて1980年代~90年代の一時期、日本にも「ヴィジュアル雑誌の時代」が訪れかけたことがあった。『月刊PLAYBOY』(集英社)、『マルコポーロ』(文藝春秋)、『DAYS JAPAN』(講談社)といった雑誌が次々に創刊され、写真家をフィーチャーした特集が口絵ページを飾った。そんな時代にアフリカ、チベット、中近東と、文字通り地球を駆け回って活躍していたのが野町和嘉で、その圧倒的な迫力を備えた写真群は読者に衝撃を与えた。行動力と映像センスを兼ね備えた、こんなにスケールの大きな写真家が日本に出てきたことに驚かされたし、実際彼の『ナイル』や『サハラ』や『メッカとメジナ』などのシリーズは国際出版の写真集として次々に刊行され、世界中で読者を獲得していった。
今回の「聖地巡礼」展は、その野町の新作「ガンガー」を中心とした回顧展である。衰えない創作意欲とともに、今は彼のような写真家にとってきつい時代になりつつあることをひしひしと感じる展示でもあった。雑誌のインタビューでお会いした時、「かつては一つのジャンルで100人の写真家が食えていたのに、今は10人で充分になってきている」と語っていたが、これは掛け値なしの実感だろう。雑誌の廃刊が相次ぎ、特集記事などでもエージェンシーの写真の使い回しが目立ってきている。だがそれでもなお、ガンジス川の源流から河口までを宗教儀式を中心に撮影した「ガンガー」や、やはり2000年代になって集中して取り組みはじめた「アンデス」のシリーズなど、人間という存在の最も純粋な瞬間である「祈り」の場面に据えられた彼の視点には、いささかの揺るぎもない。大河の流れのようにゆるやかにうねりつつ進む写真展示。ずっと長く見続けていたいという思いに誘われる。

2009/04/05(日)(飯沢耕太郎)

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