artscapeレビュー

朝海陽子「22932」

2009年05月15日号

会期:2009/03/27~2009/05/02

無人島プロダクション[東京都]

朝海陽子は、東京都写真美術館で昨年開催された「日本の新進作家Vol.7 オン・ユア・ボディ」展に、「自宅で映画を見る」人々の姿を撮影した「Sight」シリーズを発表して注目された。今回、高円寺の無人島プロダクションのスペースで公開されたのは彼女の新作だが、きわめてシンプルなコンセプトに徹していた前作に比べると相当に複雑な構成になっている。
ある一軒家に、家族ともお客ともつかない複数の人物が集う。その光景を、部屋ごとにいくつかのの視点から切り取り、カメラにおさめていく。それぞれの写真はつながったり、重なったり、切れたりしながら、何かおぼろげな物語を編み上げているのだが、登場人物のバックグラウンドも、物語全体の構成も明らかにされないので、観客は宙吊りにされたような不安定な気分を味わう。どこかミステリアスな、微かに血の匂いが漂うような雰囲気が、感情を微妙に逆撫でするのだが、その正体も最後まで明かされないままだ。
はっきりいって、このままでは失敗作としかいいようがないだろう。個々の写真は魅力的だが、物語の構築力が乏しく、写真の構成も混乱しているので、謎解きのカタルシスにはほど遠いからだ。とはいえ、新たな領域にチャレンジしていこうという積極的な姿勢には共感できる。もう少し作品の構成要素を絞って再構築すれば、別の可能性が見えてきそうだ。さらなる展開に期待というところだろうか。

2009/04/30(木)(飯沢耕太郎)

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