artscapeレビュー

安斎重男作品展「Unforgettable Moments」

2009年05月15日号

会期:2009/03/24~2009/04/25

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

今年古希を迎えた安斎重男は、1960年代からアーティストたちの仕事の現場に寄り添いつつ、彼らのポートレートを撮影し続けてきた。その作家活動40年を記念して開催されたのが今回の展示。イサム・ノグチ、ヨーゼフ・ボイス、瀧口修造、大野一雄など、既に故人になったアーティストも含めて、錚々たる顔ぶれのポートレートが並ぶ。安斎の撮影手法はスナップショットに徹しているので、写真を見る者はアーティストたちがいる空間に直接招き入れられているような、とても親しみやすい雰囲気を感じるだろう。あまり自分の主観を押しつけることなく、あくまでも傍観者として撮影している点も気持ちがよい。
もう一つ、彼の写真の魅力を高めているのは、印画紙の画面の余白に書き込まれたキャプションだろう。アーティストの名前や、撮影年だけでなく、たとえば愛蔵の西洋人形を「いとおしむ様にポーズする瀧口修造。特別なストーリーがあるのだろうとそっとシャッターを切る」という具合に、さりげなく被写体とのかかわりやサイド・ストーリーを記しているのだ。内容もさることながら、手書きの字の配列が実に巧みで、画像と響き合っているのが目に快い。そのあたりにも、長年鍛え上げられた「藝」の力があらわれているといえるのではないだろうか。

2009/04/01(水)(飯沢耕太郎)

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