2020年10月15日号
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artscapeレビュー

ハール・フェレンツ 織作峰子 写真展

2009年09月15日号

会期:2009/08/06~2009/08/11

渋谷・東急本店7階催し物場[東京都]

ハール・フェレンツ(1908~1997)はハンガリー・ツェルナトハル出身の写真家。ハンガリー人は日本人と同じく姓が名前より先に来るので、ハールがファミリー・ネームである。ブダペストで映画会社の仕事をしながら独学で写真を学び、1937年にパリに移って商業写真スタジオを開業した。39年に国際文化振興会の招きで来日。戦時中の軽井沢への疎開、56~59年のアメリカ滞在の時期を除いては、以後戦後の60年まで、東京でフリーの写真家として活動した。今回の織作峰子との二人展には、日本で撮影されたスナップ、ポートレートを中心に、ハンガリー・パリ時代、1960年以降のハワイ時代を含む代表作が展示されていた。
ハールが写真家として自立した1920~30年代は、ハンガリーでもモダニズム的な写真表現が台頭した時代である。そういえば、ラースロー・モホリ=ナジ、アンドレ・ケルテスらも、ハールと同じく国外に出て活動した写真家だった。ハールの作品にも、彼らと共通する、しっかりと構造的に組み上げられた造形感覚が見られる。日本で撮影された写真には、その画面構成の感覚がカオス的な現実世界を巧みに、精確に秩序づけている様子が伺えて、とても興味深い作例となっている。同時代の日本人写真家の情緒的な作品群と比較すると、まるで別の国で撮影された場面のようにすら見える。ハールのカメラは、戦前、戦中、戦後の日本人と日本社会を、思いがけない角度から照らし出す光源となっているのだ。
織作峰子は10年ほど前からハンガリーに通うようになり、折りに触れて市民生活をスナップしてきた。その親しみやすい情景は、どこかハールが撮影した過去の日本の佇まいと共通しているようでもある。なお本展は「日本・ハンガリー国交樹立140周年記念」として、大阪芸術大学の主催で開催された。

2009/08/07(金)(飯沢耕太郎)

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