artscapeレビュー

2011年10月01日号のレビュー/プレビュー

もう一人の私の写真展 Love*Sae

会期:2011/09/13~2011/09/17

Calo Bookshop & Cafe[大阪府]

作家(匿名)は解離性同一性障害を持つ人物で、主人格の自分とは別にもう一人の別人格・Saeが同居している。本展では、Saeが撮影した写真&テキストと、主人格が写真に付けた一説の言葉をセットにして展示した。2人の人格はお互いの存在を知っており、かつては反目し合っていたが、今では作品制作を通して安定した関係が続いているそうだ。私はこの障害について無知なので、的確に説明することができない。ただ、このような表現行為が可能であることを初めて知ったので、ひたすら驚いた次第だ。

2011/09/14(水)(小吹隆文)

千代田芸術祭2011

会期:2011/09/03~2011/09/19

3331 Arts Chiyoda[東京都]

3331 Arts Chiyodaによる芸術祭。今回は展示部門の「3331アンデパンダン」のほかに、ステージ部門とマーケット部門が加わって規模が大きくなった。展示部門に出品されたのは300点あまり。床から壁面の隅々まで、所狭しと作品が展示された光景は圧巻だ。とりわけ際立っていたのは、Hi! LEGによる《有名になりたいプロジェクト》。映画のチラシをシミュレーションした作品で、登場人物に扮して撮影した写真をもとに本物そっくりのチラシに加工して、偽物と本物をあわせていくつも展示した。おもしろいのは、シミュレーションを集団性によって行なっていることと、その完成度を(おそらくは)あえて求めていない(ように見える)こと。ふつう、なりきりポートレイトといえば、森村泰昌にしろ澤田知子にしろ、ほとんど単独性によって成立しているが、ユニットのHi! LEGは複数の人物が共同で取り組んでおり、しかも特定のメンバーにスポットライトが当てられるということもない。言い換えれば、シミュレーションを実行しつつも、模倣を極限化するのではなく、むしろシミュレーションによって本来の華のなさを逆に浮き彫りにしようとしているかのようだ。律儀に本物と並置することで、偽物のまがまがしさを強調しているのは、彼らのシミュレーションが文字どおりのシミュレーションではないことを如実に物語っている。スターや女優を気取ってオンリーワンを嘯くのではなく、どこまでも庶民の自分を肯定しようとする健全な心意気が感じられた。アンデパンダンの時代ならではの作品である。

2011/09/14(水)(福住廉)

暑さと衣服──民族衣装にみる涼しさの工夫

会期:2011/07/05~2011/09/24

文化学園服飾博物館[東京都]

東日本大震災にともなう原子力発電所の事故により、この夏はさまざまな場面で節電が求められた。エアコンの設定温度も高くなり、例年よりも蒸し暑い環境で過ごさざるをえなかった。緑のカーテンなどの自然の利用や、スーパークールビズの提案など、人工的な気温調節手段に頼らずに過ごすためのさまざまな工夫や提案が話題にもなった。震災による節電の必要は一時的なものだろうが、近年の猛暑を考えれば、このような取り組みはこれからも積極的に継続していく必要がある。
 「暑さと衣服」展は、気温の高いさまざまな地域で発達してきた民族衣装を分析し、涼しさを創り出すための機能を考える企画である。「暑い」と一口にいっても、その性質は多様である。一日の気温があまり変化せずに暑い地域もあれば、昼夜の温度差が激しい地域もある。日差しが強い地域では身体全体を覆い隠す必要があるし、湿度が高い地域では衣服の中を空気が移動し、熱を放出するための工夫がなされる。一年を通じて気温が安定していて衣服による体温調節が必要ない地域もある(ペニスケースまで展示されていた)。衣服の発達には文化的な側面からの影響が大きいはずであるが、それをいったん捨象して、気候と衣服の機能との関わりを科学的に考察する試みはとても面白い。クールビズ、スーパークールビズと和服とで、暑さの感じかたの違いを検証した実験や、涼しさを可能にする素材の分析などもあり、文化学園ならではの好企画であった。[新川徳彦]

2011/09/14(水)(SYNK)

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六甲ミーツ・アート 芸術散歩2011

会期:2011/09/17~2011/11/23

六甲ガーデンテラス、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、オルゴールミュージアム ホール・オブ・ホールズ六甲、六甲ケーブル、六甲ヒルトップギャラリー、六甲山ホテル、オテル・ド・摩耶(サテライト会場)[兵庫県]

阪神間の身近なレジャースポットであり、都市に隣接する貴重な自然空間でもある六甲山。その山上に点在するレジャー施設などを会場に、昨年に引き続きアートイベントが開催された。山上を散歩しながらアートを体験し、同時に六甲山の豊かな自然に気付いてもらうというコンセプトは秀逸で、今年も植物園内を移動している最中に、「やっぱり、ここはいい所だなー」とつぶやいてしまった。ただ、昨年に比べると作家・作品数が絞られており、六甲ガーデンテラスと六甲カンツリーハウスの展示がやや寂しかったのも事実。そこを観客がどう判断するかが、今回の評価の分かれ目となるだろう。

2011/09/16(金)(小吹隆文)

ザ・ポスターズ──南部俊安・高橋善丸・杉崎真之助 グラフィックデザイン展

会期:2011/09/12~2011/09/19

大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室[大阪府]

大阪のデザインイベント「御堂筋デザインストリート2011」の一環として、大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室で開催されたグラフィックデザイン展。大阪を拠点に国際的に活躍する3名のグラフィックデザイナー、南部俊安、高橋善丸、杉崎真之助のポスター約70点が展示された。いずれのポスターも、タイポグラフィとグラフィックというポスターの二大構成要素の関係性が生みだす彼方の世界へとわれわれを誘う傑作ばかりだ。無論、そうした関係性と世界の構築の仕方は三人三様である。南部の《大阪市立デザイン教育研究所展》(2005)のポスターは、文字の一辺が有機的な肉体を与えられて、各々の文字が躍り出すかのようだ。高橋の《王子ペーパーギャラリー》(2001)のポスターでは、写真とステンシルのあいだのような曖昧な「K」の文字が、虚構の景色を現前させる。杉崎のポスターは、《Another Japan》(2008)において図形の巧みな繰り返しが観る者の視線を手前から奥に引きずり込むかと思えば、「あ」の文字ひとつがポスターの構図を成す《秀英体》(2011)など、多彩かつ迫力に満ちている。各人のアプローチについては、USTREAMで配信された9月17日のデザイントーク「デザインの国際化と近代美術館」でデザイナー自身が語っているのでそちらを参照されたい。本展もそうだが、大阪市立近代美術館(仮称)の展覧会は、国内随一というべき近現代美術とデザインのコレクション、および学芸員の高い研究・企画力を背景に、つねに充実した内容となっている。平成29年の中之島での新館オープンがいまから待ち遠しい。[橋本啓子]

2011/09/16(金)(SYNK)

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