2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2014年02月01日号のレビュー/プレビュー

「みんなのサザエさん」展

会期:2014/01/15~2014/01/26

大丸ミュージアム神戸[兵庫県]

1969年の放送開始から今年で45年目を迎えるアニメ『サザエさん』の世界を再現した展覧会。「サザエさん」は第一回から現在まで変わらず日曜の夕方に放送されるスタイル、ギネス記録をもつ世界一の長寿アニメ。本展では、磯野家やあさひが丘商店街をセットでつくり、家の間取りを模型で示したりと、工夫をしてアニメの世界を具体化している。長谷川町子の漫画「サザエさん」は、1946年に連載が始まり74年まで続いた。戦後復興から高度成長期を経る、戦後30年の生活変化の大きな振れ幅を示しているわけだ。以後、映画化やアニメ化がされたので、社会風刺精神の効いた原作漫画とアニメは別物と言える。とはいえ、核家族ではなく三世代が一緒に暮らす家庭の平和な情景、平等な家族観、近所とのオープンな関係という昭和時代の社会文化や、サザエさんという戦後の新しい女性像/キャラクター設定が生み出す魅力について、考えさせられる展覧会であった。[竹内有子]

2014/01/17(金)(SYNK)

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パテック フィリップ展──歴史の中のタイムピース

会期:2014/01/17~2014/01/19

明治神宮外苑 聖徳記念絵画館[東京都]

スイス・ジュネーヴの最高級時計ブランド、パテック・フィリップ社の創立175周年および日本・スイス国交樹立150周年を記念し聖徳記念絵画館で展覧会が開催された。ロシア圧制下にあったポーランドからスイスに亡命したアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックと時計師フランソワ・チャペックによって創業されたパテック・チャペック社がその起源で、後にフランスの天才的な時計師ジャン=アドリアン・フィリップと出会い、1851年にパテック・フィリップ社と改称された。英国のヴィクトリア女王や夫であるアルバート公、作曲家のチャイコフスキーやワーグナー、作家のトルストイなど、多くの偉人たちが顧客となってきた時計メーカーである。今回の展覧会は、聖徳記念絵画館を舞台に、ジュネーヴのパテック・フィリップ・ミュージアムが所蔵する19世紀半ばから20世紀初めまでの懐中時計の名品80点が、それぞれの絵画に合わせて展示された。絵画館が会場に選ばれた理由は、主に3つ。パテック・フィリップ社が名声を確立した時代が日本の明治時代にあたること。明治天皇が時計好きであったということ。岩倉具視らの使節団が1873(明治6)年にヨーロッパを訪問した際にパテック・フィリップ社を見学した★1という歴史的な縁があるということ、である。
 絵画館の重厚な空間、明治天皇の事績が描かれた日本画と洋画80点を背景に、ほぼ同時代の懐中時計がケースに入って並んでいる。通常、歴史的な製品を紹介するのであればその製品の説明ばかりではなく、時代背景の紹介も必要となろう。しかしここにはすでに絵画と解説パネルが設置されており、それ以上の説明はいらない。空間それ自体が「伝統と革新」というパテック・フィリップ社のイメージと見事に一致している。とてもシンプルな会場構成であったが、それがなによりも効果的であった。
 スイスの時計産業は1970年代のクオーツ・ショックで大きな打撃を受けた。しかしながら、その後の日本の時計産業が低価格競争によって疲弊していく一方で、スイスの時計産業は高級路線によって再編され、売上を拡大してきた。そうしたスイス高級時計ブランドのなかでも、とくにパテック・フィリップ社は他のブランドに呑み込まれることなく、独自の路線を貫いてきた存在である。170年余という歴史や、著名人に愛されてきたことがブランドのイメージに資してきたことはもちろんであるが、そのものづくりの背後には、技術や素材における絶え間ない革新が見て取れる。それでいながら、100年前の時計でも修理できるという技術を保持し続けている。デザインにおいて流行を追うことはなく、外部のデザイナーと共同することもないというが、つねに新しい製品を出し続け、それでありながら不思議と過去の製品が古びては見えない。消費されるデザインではないのである。時計以外の製品を手がけることはなく、ブランドのイメージは拡散しない。需要が拡大してもやみくもに生産を拡大することはなく、独自の基準を設けて品質の保証を優先する。きらびやかな宝石によって付加価値を付けるのではなく、手作業による超絶的な加工・組み立てがそのまま製品の価値、価格として認められている。それらを実現しているのは自社の歴史と強みに対する正しい認識ではないだろうかと今回のコレクションを見て感じた。アジアとの価格競争に窮している日本の製造業を見るに、パテック・フィリップを初めとするスイス時計産業の歴史的展開には学ぶところがたくさんあると思う。[新川徳彦]

★1──久米邦武編著『米欧回覧実記』(86巻89~90頁)に記述されている。



展示風景

2014/01/17(金)(SYNK)

『薔薇の人』(第16回:メリー・ジェーン オン・マイ・マインド)

会期:2014/01/16~2014/01/19

両国門天ホール[東京都]

何度ぼくは黒沢美香について書いてきたことだろう。その度にぼくはほとんど同じことを書いてきたに違いない。それでいいのだ。黒沢は発展しない。成長しない。むしろ黒沢は自転する星のような存在で、その星の力がいまも健在であることを、体感しながら確認するために見に行くのだ。とくに『薔薇の人』シリーズは黒沢特有の表現の場である。これは「アート」なのか? 「ダンス」なのか? いや、そのどちらでなくてもいい。そうした既存のカテゴリーを超越した、不思議な、『薔薇の人』としか呼べない何かがここにある。これまでの『薔薇の人』も多くの場合そうであったように、数多くの道具が用意され、それが一つひとつ取り上げられ、その道具で不可解な作業が進められ、「実りある成果」と呼ぶのとは別の結果が起き、またあらたな道具が握られる、といった時間が続く。透明なボウルに水が満たされ、糸状のカーテンの端がはさみで切られ、その粉のような緑の糸がボウルに放り込まれ……といった具合だ。重要なのは、一つひとつの作業が統合されゴールに至ることではなく、道具を手にしたとき、これから始まることに黒沢の気持ちが「ちょっとアガる」その一回一回の「アゲ」にある。この「アゲ」は、シアトリカルなオーバーアクションではまったくなく、静かな表情の若干の変化として示される。ときには「アゲ」の気分が高じて一曲踊るまでに達することもあるけれど、黒沢の真骨頂である、あの無表情の顔に起こる微妙な変化こそ、ほかの誰ももちえない魅力なのだ。微妙だからこそ、ぼくらは黒沢の心の内部へと引きつけられる。その秘められた心の躍動あるいはそれがふと垣間見えた瞬間、ぼくはそこに「ダンス」を見る。ダンスとは踊りの型(パターン)の内にではなく、そうした「アゲ」の気分とそれがこぼれてくる様の内にあるのだ。黒沢のパフォーマンスはいつもそのことを思い出させる。踊らずにはおれない気持ちというものが、どう生成するのか、あるいはそれをどう待てばいいのか、そうした点を見過ごさないところに黒沢のダンスへの誠実さがある。道具を手にして、静かに熱くなる気持ち。それをデリケートに伝える黒沢の身体は、ダンスを踊っているようには見えない、いや、そこに微かに示唆されているものこそがダンスなのではないか。黒沢という星が輝いているあいだは、この星の自転を見続けていたい。

2014/01/17(金)(木村覚)

フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション

会期:2014/01/18~2014/03/23

兵庫県立美術館[兵庫県]

フランス・パリのポンピドゥー・センターにあるパリ国立近代美術館には、支援組織「国立近代美術館友の会」がある。この会は2002年に「現代美術プロジェクト」を立ち上げ、同館への作品の寄贈を続けてきた。2012年に同会の活動10周年を記念して開催された展覧会を日本に持ってきたのが、この「フルーツ・オブ・パッション~」だ。展示作品は、寄贈作品25点と、20世紀美術のマスターピース6点。前者には、レアンドロ・エルリッヒ、ハンス=ペーター・フェルドマン、エルネスト・ネト、アンリ・サラ、ツェ・スーメイといった今が旬の作家たちが数多く含まれ、後者には、ダニエル・ビュレン、ゲルハルト・リヒター、サイ・トゥオンブリーといった巨匠が名を連ねている。これだけの面々が名を連ねる現代美術展は貴重であり、実際に驚くほど豊かな作品体験ができた。幸か不幸か本展は巡回せず、神戸でしか見ることができない。情報が伝われば、きっと全国から熱心な現代美術ファンが訪れるであろう。

2014/01/18(土)(小吹隆文)

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デヴィット・シャリオール写真展“ISOLATED BUILDING STUDIES”

会期:2014/01/11~2014/02/23

GALLERY TANTO TEMPO[兵庫県]

デヴィット・シャリオールは米国・シカゴを拠点に活動する写真家で、区画整理など何らかのの理由で街区に1軒だけ取り残された建物を、真正面から撮り続けている。そのテーマは社会学的であり、一定の構図を守り続けている点でタイポロジーの系譜に属する作家と言える。空き地の中に孤立した建物の姿は寂しげだが、時には崇高さをたたえ、またある時にはマグリットの絵画にも似たシュールな姿を見せてくれる。また、西洋建築におけるファサード(正面デザイン)の重要性にも気付かされた。今回は10数点の作品と絵はがきサイズの小品35点からなる小規模な展示だったが、チャンスがあれば、広い空間で今回の何倍もの作品が並ぶ様を見てみたい。

2014/01/18(土)(小吹隆文)

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